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哲平は期待に応えて昼食を早く終えた。確かに今は大変ではある。なぜなら花がいないからだ。あの存在はやはりデカいのだと痛感している。
自分の代わりに痛烈な叱咤激励を飛ばす『花部長補佐』に、代打はいない。田中も池沢もあの強烈な個性の前では霞んでしまうくらいだから。
食事の終わった哲平が出て行く。それを追うように蓮はスタッフルームから廊下に出た。
「どうしたの? 今朝のハイテンションはてっきり戸籍問題が解決したからだと思ってた」
「そっちは取り敢えずいいんだ。時間無いから簡単に言う。ジェイにアメリカから手紙が来た。父方のおばあちゃんからだ」
「え!? マジ!?」
「マジだ、それで日本に来たいから連絡くれって書いてあった」
「うわ! それで!?」
哲平が興奮する。
「電話をかけようとした、ジェイも泣いて大変だった」
「だよね! それで? 感動の電話は!?」
「してない」
「なんで!」
「あいつ、英語喋れない」
哲平が黙ってしまった。
「なんとか言えよ! きっとおばあちゃんはジェイの電話を待ってるんだ。もう70は越してると思う。早く会わせたい。けど俺の通訳なしじゃ何もできない」
「ちょっと考えさせて。うわ……超大問題……」
さすがの哲平も、頭を抱えてしまった。英語が出来ないことを笑っていたのに、もう笑い事じゃない。
「知恵、絞るよ。蓮ちゃんも考えといて。今夜ちょっとだけ寄る」
蓮はしっかり頭を下げた。
「すまん」
「いいって、弟のことだから。……うわ、超大問題」
同じ言葉を繰り返して哲平は会社に戻って行った。
ランチが終わって、片付いてから休憩で家に帰った。母のことは無理矢理脇に置く。英語を手っ取り早く会話レベルに引き上げるにはどうしたらいいのか。大きな課題に頭を痛めた。
ジェイも真剣に悩んでいる。やはり自分でおばあちゃんと話をしたい。
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