蓮の心、ジェイ知らず

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  (パクついてる…… 本当に美味しそうに食べる子ね)  昨日、29歳なのだと聞いた。今年の3月に30歳になるのだと。 (そうは見えない。まるで中学生……ううん、小学生みたい!)  それが病気によるものだと思うと切なくなるが。 (そう言えば戸籍のこと、本当に忘れたのね? あれきり発作も起こしてない)  いいことなのだろう。息子は悲しんでいるだろうが。それでもジェイの心の平安を大事にする方が先決だ。 「ご馳走さま!」 「どういたしまして」 「お母さんが作ったんじゃないのに」 「あら! じゃ、明日は作ってあげようか」 「ゼリーを!?」 「ええ。なんならプリンもね」 「わ、お願い! 幾つ作る? 休憩には食べに来るから。夜も食べたい」 「幾つにするかは内緒。楽しみにしてなさい」 「つまんないの」 「だいたいジェイはデザート食べ過ぎよ。シュークリームなんか毎日買ってきちゃだめよ」 「俺じゃないよ、蓮が買ってくるんだ。無くなりそうになるとちゃんと新しいのが入ってるの」 (呆れた…… 太るかもしれないって心配しておきながら。ちょっと甘やかしすぎ)  我が息子がどれだけジェイを可愛がっているかよく知っているが、ちょっと注意すべきだと思う。30代ともなればそろそろ成人病予防も考えないと。 (でもこうやって見てるととても考えられない) 自分まで甘やかしてしまいそうで困る。  さっきの封筒にチラリと目をやる。 (いいのかしら、放っておいて。手紙持ってお店に行ってみようかな) だがジェイはトランプを出してきた。目をキラキラさせて晶子に聞きもせず配り始めている。 「またババ抜きなの?」 「うん! お兄さんたちにいつも負けるから練習!」 (そりゃ負けるわ。顔見れば全部分かっちゃうんだもの。札を摘まむたびにあんなに顔色変えちゃ)  ポーカーフェイスというものを教えたのだが、どうも上手く行かない。ババの隣を摘まむと悲しげな顔をするし、終いにはババをひょこっと突き出してしまう。しょうがないからそれを抜くと、「やった!」と騒ぐ。 (勝たせてあげるのが大変!)   
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