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息子の生のああいう姿は見たくないと思う。結構晶子は怒っていた。
だが佐々木夫妻と過ごした時間はとても心地よくて、あの『河野家』から遠ざかったことは本当に良かったのだと思えた。
(……蓮司のお蔭なのよね。思い切って私たちを連れ出してくれたから。全部引き受けてくれて。ジェイも気持ち良く受け入れてくれてる。あの家に置いてもらっている立場なのに)
そう思うと若い2人に無理なことを言ったのだとも思える。あれだけの姿を見せて気づかないというのは、自分に心を許しているからだ。
(可哀そうなことをしたかもしれない)
「利恵さん、私そろそろ帰るわ。ジェイにゼリーを作ってあげなきゃならないの」
「そのジェイって言う人に、私たちお会いしてないんですよね。一度お会いしたいです」
「……じゃ、この後一緒になごみ亭に行きましょう。掛け違って会ってないんですものね。早い時間帯ならお店に出てるのよ。とても可愛い子だから」
3人は一緒にホテルを出た。まだ明るい。4時から開くが、その前に着けばきっと話が出来るだろう。
「親父っさん、動きがちょっと変です」
『今日はあんたかい。変ってのは?』
今日の張り番は星野だった。休憩で店が閉まっているから外で張っている。1月だし曇っている。寒さは堪えるが刑事の頃は日常茶飯事だった。
「1人で外に出ています。途中河野さんが追ってきたんですが、どうやら喧嘩でもしたようで、河野さんは店に帰って行きました。1人で歩いているところに脇を走っている車のドライバーが何か言ったみたいで、ジェイの歩き方が早くなりました』
「そのままつけてくれ。様子がおかしかったら間に割って入ってくれねぇか?」
『お安い御用ですよ。またご連絡します』
親父っさんは用心深い。そうでなくちゃ組長などやっていられない。星野の興信所だけじゃない、なごみ亭を見張らせているのは。
「俺だ。なごみ亭だが」
『はい、ジェイが1人で動いてます。車が1台妙な動きを見せてますね。どうします?』
「星野に指示してあるが見てろ。星野の方で上手く行かねぇようならお前が動け。ただしジェイには悟られたかねぇ」
『難しいことを』
笑っている。瀬川のところの上地だ。川合に言われて動いている。上地はあまりヤクザっぽく見えないから重宝される。伴のようなものだ。
『瀬川隊長んとこの若いのは使えねぇなんて親父っさんに言われたら俺の首は吹っ飛びますからね。任せといてください』
「いいか、出来ればヤクザを出したくねぇんだ。そのつもりで動けよ」
『はい』
「それからその運転手のことを調べろ」
『はい』
ジェイが知らない間に周りではいろんな人間が動き始めていた。
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