不安

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   ちょっと静かになってトレイを持ったジェイが出てきた。 「いいのか?」 「お薬も飲んだし。ベッドもちょっと起こしてあるから吐かないと思う。うとうとしてるから多分寝るよ」 「毎日こんな風なのか?」  ジェイの持っているトレイを見る。完食じゃない。 「うん。昨日のお昼は無理して食べた後で吐いちゃったんだよ…… でもずいぶん食べるようになったんだ!」 「……そうか」  2人とも(退院は当分先だな)と思う。  トレイを片付けてきたジェイは蓮を覗きに行った。 「もう寝ちゃった」  複雑な心境になるが、吐かなくなったと喜ぶジェイに水を差したくない。 「ポリープの結果、いつだっけ?」 「月曜に分かるよ。看護師さんが良性の方が多いって言ってた」  そこで違和感を感じた。だからと言って心配性のジェイがこんなに軽く言うとは思えない。 「誰もいなくて大丈夫か? ……マリエにでも来てもらう? 三途さんとか」 「大丈夫だよ、きっとたいしたことないから」  哲平と顔を見合わせる。 「桜井の言ったこと、気にすんなよ。あいつは受付で面会断るように頼んどいたから」 「桜井さん? なにか言ったの?」  哲平が座りなおした。 「昨日、来たろ? それでお前に……いやなこと言ったって」 「そうだったの!? 俺じゃなくて蓮にでしょ! 多分部屋から離れた時に来たんだね。もう来ないでほしい、蓮の具合が悪くなっちゃうよ!」  内心焦っているが、花の口調は穏やかだ。 「そうか、お前その場にいなかったんだな?」 「うん。いたら俺だって追い返してるよ」 「偉い偉い、その調子で頼むぞ。その話、蓮ちゃんにはするな。思い出したくないだろうから」 「絶対にしない。大丈夫!」 「……なにか……してほしいことないか? ほかに気になってることとか」 「ないよ、大丈夫」  哲平はコートを持って立ち上がった。 「ならいいんだ。お前が心配なだけ」 「一つだけ」 「なんだ?」  すぐに哲平は座った。 「ずっと蓮のそばにいるから…… いやってことじゃないよ、そのほうがいいんだ。ただ母さんのとこにずっと行ってないからそれが気になるってことだけ。長いこと入院してるのに」  2人の動きが止まる。やっとのことで哲平が聞いた。 「お母さん、か? 入院してるって?」 「でも行ってないから…… こうなる前はお店も忙しかったし。落ち着いたら行こうと思うんだ。気になるのはそれくらい」  機械的な返事になる花。 「早く行けるといいな」  早々にエレベーターに向かった。途中から速足だ。 「……ね、どういうこと?」 「分かるか、そんなの。桜井のこともだが…… お母さん、だって?」  それきり2人は話さなかった。大きな不安に包まれていた。  
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