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緊急連絡
『河野さんの見舞い及びジェイとの連絡、一切禁止。なにかあれば俺か花へ』
哲平から緊急連絡がベテラン勢とリオに回った。ただし桜井と七生には送らない。
七生のことを知っているのは哲平と花だけだ。子どもは堕ろした。その後はぐずぐずと体調が戻らず、今は実家にいる。復職は難しいかもしれない。
メールを受け取った者たちは哲平、花に連絡を取るのを控えた。みんながみんな、誰かからの電話対応で2人が忙しいだろうと思っている。
『一切禁止』。よほどのことが起きたに違いない。
(河野さんの容体が急変したとか?)
そう考えて、田中は有り得ないと思った。なら『来るな』ではなく、『来い』と言われるはずだ。
結局みんな『メールでもいいから様子を教えてくれ』というメールだけを2人に出して電話はかけなかった。
2人。直球で電話した者がいる。2人はオフィスメンバーじゃない。
『俺だ。どうなってる?』
「すみません、これはお知らせした方がいいと思って」
『蓮司か!? 蓮司になにかあったのか!?』
「違います、ジェイです」
『ジェイ?』
「ジェイが……母親の死を忘れました。記憶が消えたんです。だから今は」
『蓮司はそれを知っているのか?』
「いいえ」
『分かった。なにかあれば知らせてくれ』
「はい」
もう一本の電話は哲平が話し中だったせいか花に電話がかかった。
(やば)
この電話に出るのは嫌だと思うが仕方ない。ONにするなり喋った。
「あのさ、どこまで聞きたいの?」
『全部』
「ジェイがお母さんが死んだ記憶をなくした。河野さんはそれを知らない。以上」
息を呑むのが分かった。
『父さんたちにも伝えといていいわね?』
「任せるよ。三途さんも悪いけど来ないでほしい」
『分かったわ。聞いていい? なんでそうなったの? それってよほどのことじゃない限りそうならないでしょ』
「河野さんが癌かもしれないって思ったんだ。そのショックが強すぎたんだと思う」
『なんでそう思ったの?』
(じわじわ攻めてくるな……)
「その先は言わない」
『ふぅん…… あんたと哲平じゃ喋んないわね。いいわ、後は任せる。じゃね』
哲平と花は互いに大滝と三途のことを伝えあって仕事に向かった。それ以上、何もしようが無かった。
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