のどかな一日

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   ジェイが頼んで、蓮の車椅子を押した。お互いにすごく新鮮で、こんな刺激に気持ちが浮き立つ。ジェイは車椅子には乗っても押すのは初めてだ。  森下さんの後について6階に降りた。 「あの突き当りなんですよ。今日の天気なら暗くはないので楽しめると思います」  入ってみてその広さに驚いた。ソファが並んでいる場所、テーブルと椅子で食事も出来そうな場所、ベッドが並んでいる場所と工夫がされている。書棚は3か所に分かれていくつも並んでいる。 「ベッドが空いていれば横になっていてもいいんです」 「そうなんですか」 「6階以上の患者さましか入れませんのでそううるさくなることもありません。点滴だけでしたらこちらで受けていただくこともできますよ」 「夏はどうするんです? かなり暑くなるでしょう」 「室温コントロールをしていますから。太陽の日差しが強くなる日は内部の日除けで対応しますので心配ないんです。でも河野さまの入院はそこまで長くないでしょうから」  ずっと寝ている。だからベッドはいやだった。森下さんが離れて、ジェイがゆっくりと中を回ってくれた。 「雨、きれいだね!」  頭の上のドームを流れ落ちていく風情は、まるで別世界のようだ。 「ベッドじゃなくていいからあのリクライニングチェアに座るのはどう?」  ジェイが指さす方向を見て惹かれた。上を見ていられる。今日はそんな風に過ごしたい。まだ本を読むには早いような気がする。 「お前も隣に座れそうだな」  日曜で部屋に来る見舞客が多いのだろう。それほど人が多くない。 「うん、そうする!」  リクライニングチェアの脇に車椅子を置いて、2人で並んで背中を椅子に預けた。 「気持ちいい!」  空を眺める。普通の窓もいいが、はやりドームの天井を見る方が見応えがあると思う。 「眠くなっちゃうね」 「そうだな」  ジェイも応接室で普通の昼食を食べている。こんなにゆったりしたら眠くなって当然だ。ふっと疑問がわいた。 「ジェイ、お前夜中ちゃんと寝てるか?」 「どうして?」 「こら、質問に質問で返すんじゃない。俺がトイレに行きたくなったりするとすぐ起きてくるじゃないか」 「蓮が起きるのに気がつくだけだよ。それに1人で行くなんてだめだよ」 「ずっと起きてるのか? 睡眠薬は飲んでるか?」 「飲んでるよ。心配しないでよ」  飲んでいるなら起きるはずがないのだ。 (でも…… 逆だったら俺もそうするだろうな) そう蓮は納得した。その納得ができるほど気持ちが穏やかだった。  
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