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本当に贅沢だ。病院で空の下で点滴。一般人には味わえない感覚。まさなりさんに感謝していた。こんなに解放された気持ちになっている。とろとろ寝たり、2人で喋ったり。
ジェイは痒いところまで手が届いて、飲み物を考えてくれたりハンドタオルを渡してくれたりする。
(痒いって言ったら本当に掻いてくれそうだ)
そう考えて可笑しくなる。過保護にするだけじゃない、過保護にしてもらうのも悪くない。
誰にも会わないというのが良かった。差し当っての心配事がないのが良かった。ジェイが落ち着いてくれているのが良かった。
点滴が終わりそうなころに森下さんが来てくれた。
「良かった! 連絡しに行こうかと思ったんです」
ジェイは少なくなっていく点滴から目が離れずにいた。
「ごめんなさい! ナースセンターに繋がる内線電話があるんです。そことあそことあそこ。緊急の場合は赤いボタンです。大事なことをお伝えしてなかったですね、申し訳ないです」
「もう分かったから大丈夫です」
「この後は部屋に戻った方がいいんでしょうか?」
森下さんは蓮に笑顔を向けた。
「気に入ってくださったんですね。次のお食事までいいですよ。このカードをお渡ししておきますね。自動販売機があちこちありますが、これで利用できます。清算は退院時にできますので。お食事の時間前には部屋にお戻りください」
「すごいねぇ。蓮、ここに住みたくなっちゃった」
「点滴付きでか?」
「それはいやだけど」
「もう少しだけこの病院にいよう」
「その後は?」
「……考える、どうしたいのか」
「じゃ決まったら教えて」
「それでいいいのか? 本当に」
「うん、いいよ」
しばらくまた雨の天井を見ていた。ほとんどの人がそうやって過ごしている。雨には不思議な効果があるようだ、話し声もとても静かで。
「動きたいな。車椅子に乗るから押してくれないか?」
「うん!」
動きたいと言ったことが嬉しかった。リクライニングチェアから乗り換えるのも普通にできている。
「歩けるのに」
「だめ。いいって言われるまで絶対だめだからね!」
「分かってるよ。でも歩きたいんだ」
「早く一緒に散歩できるようになりたいね」
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