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遠くから上地はその様子を見ていた。携帯を手にする。相手は親父っさんだ。
『どうなった?』
「何人かジェイを知った連中が通りかかりましてね、車に乗ったところを外に連れ出されました。どうやら本人はなにがなんだか分からずにいるらしいです。ずい分困惑した顔してます」
『そうか。ひとまず良かった。運転手は?』
「キリキリした女です。ヒステリックなタイプで。このまま跡をつけてって構わないですか?」
『そこはどうなる?』
「すぐ他のもんに来させます」
『なら頼む。目が節穴のヤツは要らねぇぞ』
「親父っさん、そんなヤツは柴山隊長の下にいらんないですよ」
『それもそうだな。おい、柴山には黙っとけよ。そんなこと言ったってバレると俺が怒られる』
「冗談でも言えませんって。隊長にジョークは通用しませんから」
親父っさんには想像はついている。
(弟の嫁ってヤツだな。自分でのこのこ来るなんざ頭が悪い)
しばらく考えた。戸籍の件は上手く行く。少々待つにしても間違いなく大将とジェイの名前は消えるのだから文句はないはずだ。だがそれで引っ込むような女ではないだろうと思っていた。
(金持ちで箱入り娘。プライドばっかりのバカ女。少しばかり脅かしとくか)
親父っさんの方針が決まった。さっそく電話だ。
「俺だ。お前んとこの見るからにガラの悪いのを3人ばかり貸してくれ。頭の弱いやつは要らねぇ」
『親父っさん、頭の弱いヤツは俺も嫌いですよ』
柴山の声の中に含み笑いが入っている。
「ほい! こりゃ悪かった。お前んとこっくらいだよ、隊に入れるのに学力試験なんざするのは」
『学力じゃないですよ。適性検査ってやつです。気持ちの浮ついたヤツには他を当たってほしいんでね。学力の方は面接の受け答えで見ています』
「ヤクザじゃねぇな、お前んとこは」
『切り込み隊はバカじゃやれないんですよ。ところでなんに使うんですか?」
親父っさんは計画を説明した。
『なるほどね。素人を遠ざけるには一番いい方法だ。さすがですね』
「……今度飲みに行かねぇか、2人だけで」
『なんです、唐突に』
「お前と大将を会わせたくなった」
『……嬉しいですがやめときます。その人は日向を歩く人だ。親父っさんの指示がなけりゃ会っちゃならない人だと思います』
「そうか。そうだな。悪かった、らしくもないことを言っちまった」
『嬉しいですよ、親父っさんの大切な人を見せてくれようとした。陰ながらしっかりお守りいたしますから』
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