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晶子と郁子
晶子を後に残して、ジェイは佐々木夫妻を店に案内した。星野も一緒にご主人に手を貸している。
「本当にありがとうございます。お客さんもこんなにいい方がいらして」
「なごみ亭にはね、ファンが多いんですよ。蓮ちゃんっていうマスターがこりゃまた一種独特の雰囲気を持っててね、そこが癖になる!」
星野は店に対して心底そう思っている。繁盛するのも無理はないと。そしてこのジェイのぽわぽわした雰囲気がまたいい。当然、2人の関係を知っているが、何の違和感もなく見ることが出来る。
だが今横を見るとジェイの顔がいつもと違っていた。店に入る前に、さっきの方向に目をやっている。
(そりゃ気になるよな)
結局ジェイ自身は訳が分からないままだ。
「お帰り……佐々木さん! どうしたの? いつもより具合悪い? 言ってくれれば迎えに行ったのに!」
蓮のそんな様子はジェイには新鮮だ。
「大丈夫ですよ、坊っちゃま」
「ぼっちゃま!? テレビだけで言うんだと思ってた!」
みんなが心で思うことを、ジェイは易々と口にする。星野は微笑ましくなっている。少し赤くなった蓮はジェイを睨んだ。
「うるさい! 佐々木さん、その呼び方やめようって言ったでしょ」
「ああ、そうでした! すみません。習性って恐ろしいですね、坊ちゃまは坊ちゃまなんですから」
休憩が終わって戻っているスタッフ一同も笑いを堪えている。匠ちゃんと凛子ちゃんは急いでスタッフルームに入った。そこから決して小さいとは言えない笑い声が聞こえてくる。
(あいつら!)
特に凛子ちゃんには厳しく口止めをしておかなければならない。石尾が知ったらR&D全員に知れ渡るだろう。
「時間前にごめんなさい! 私たち、ジェイ……さんとお会いしたことがないので来てしまって」
「ジェイでいいです! 蓮、凄く寒かったの。お茶出すね」
さっきのジェイの機嫌の悪さは、どこかに消えてしまったらしい。
「頼むよ。佐々木さん、すみません。俺店の支度をしてるんで」
「いいんですよ。早くに来て申し訳ないです」
「そんなこと無いよ!」
熱いお茶をジェイが出す。
「もう少ししたら手が空くので、お話しそれからでもいい?」
「いいですよ」
「ありがとう!」
ジェイも離れて行った。
「ちょっといいですか?」
星野は佐々木夫妻に声をかけた。2人ともさっきの助けを心から有難いと思っている。
「どうぞ」
3人同じテーブルになった。
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