晶子と郁子

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  「実は私、こういう者です」  星野は名刺を渡した。 [室井興信所 星野聡一] 「興信所……」  2人とも途端に顔が強張った。 「ああ、ご心配なく。世間の目は承知してますよ。興信所っていうのは人のあれこれを詮索する仕事だってね。今回の私の仕事は警護です」 「警護? 誰のですか?」 「ジェイです。これを知っている人はこの店にはいません。なぜお2人に話すかと言うと、河野家の内情をよくご存じだからです。あいにくあの中のことに詳しい者がいません」 「やっぱり探偵じゃないですか!」 「しっ! これにはジェイの人生がかかっているんです」  2人はジェイの姿を追った。屈託なく話して笑う姿。どこか子どもっぽくて、微笑ましくなるような。 「どんなことをお知りになりたいんですか?」  利恵は蓮とジェイの関係を知らない。星野は慎重に言葉を選んだ。 「河野蓮司さんとジェイの関係をご存じですか?」 「関係って……」 「お話ししたいことがいろいろあります。改めてご都合のいいときに会っていただけませんか?」  2人で顔を見合わせる。佐々木さんの方が答えた。 「それが蓮司さんのためになるんですね?」 「はい。彼はジェイの安全を守るために必死ですから」 「分かりました。今夜、8時頃なら。この近くのホテルテンダネスって分かりますか?」 「分かりますよ。じゃその時間に1階のロビーにいます。その名刺の裏にある番号にお電話ください」  蓮がジェイを伴ってそばに来た。 「じゃ、またご縁あったら。腰、大事にしてください」 「ありがとうございました」  さすが探偵だと思う。何も無かったかのように席を離れて行った。 「今の人は?」 「蓮、お客さんだよ。時々哲平さんとお喋りしてるんだ。佐々木さんが腰が悪いからって一緒に送って来てくれたの」 「そうか」  蓮は星野に向かって頭を下げた。市場で刺された時に会ってはいるが覚えていない。  蓮は2人の前に座った。隣にジェイも座る。 「改めて紹介するよ。ここの共同経営者のジェイだ」 「河野ジェロームです。よろしくお願いします」 「河野?」 「驚くだろうけど2人には分かってほしいから。俺はこのジェイと結婚してるんだ」  2人とも息が継げないほど驚いた。  
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