蓮の心、ジェイ知らず

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   ジェイは心では悩んでいる。 (やっぱりあの呼び出し、変だと思う) でも聞ける相手がいない。肝心の呼び出した人間がいないのだからどうしようもない。 (蓮に言わなくってもいいかな。……心配かけたくない。また何かあったらその時に言おう)  知らないところで知らない内にジェイの脇をトラブルが通り過ぎようとしている。  今のジェイは危ういところにいる。現実という細いロープで綱渡りをしているのだ。その下は崖。だから周りは守ろうと必死になっている。  そして、今ジェイが必死になっているのは、2枚になってしまったカードでババの隣を引かせまいという儚い抵抗だ。 「力入れたってだめ。こっちが欲しいの」  半分涙目になっているが、お母さんは3回目のババ抜きで勝つ気でいるのが分かる。 「やだよ、待って」  もう一度背中で入れ替える。 「はい!」  お母さんはちょっと困っている。さすがに3度負けるわけには行かない。 (人生はそうは甘くないのよ、ジェイ) そう考えて、トランプで人生を語ろうとしている自分に気づいた。 (もう! この子といると調子が狂っちゃう)    ジェイにはお母さんがちょっとイジワルをしているように見えた。交互に札の先っちょを摘まみながらジェイの顔をじっと見てくる。 「こっちがいいわ」 「やだ!」 「ジェイ、それじゃゲームにならないのよ。教えたでしょう? いつもと変わらない顔をするの。ジェイは『こっちは取らないで!』って顔してるんだもの、すぐに分かっちゃうのよ」 「……どうすればいいか分かんない」 「鏡を見ながらやってみようか。自分がどんな顔してるか分からないから出来ないんだと思う」  そう言われたから洗面台に行ってみた。顔をいろんな角度で映してみる。 (普通の顔なんだけど) これ以上違う顔が出来るとは思えない。  
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