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(……あ)
洗面台の淵に手を突いた。この頃一時期のような軽い眩暈がする時がある。たいしたものじゃない、ふわっとするだけだ。すぐに治る。
(これは蓮に言った方がいいんだよね)
そうは思う。でも今の蓮にはあまり言いたくない。
(哲平さんに言ってみようかな)
花にも心配かけたくない、まだ職場復帰していないし。
もうすっきりした。洗面台の横にある引き出しから小さな手鏡を出した。なぜこんなものがあるんだろう、そんな疑問も浮かばない。母の日記と一緒に入っていたのに。
「蓮、遅いなぁ」
「そうね、今日は混んでた?」
「うん」
「じゃお店を閉めるのが遅くなったのかな」
「源ちゃんに電話してみる!」
電話しに立った隙に晶子はトランプをしまった。手鏡を見ながらのババ抜きにはちょっと手を焼いていた。
(もう終わりにしないと。寝る前に興奮させちゃだめ)
まるで本当のお母さんだ。
「源ちゃん、蓮は? お店まだ片付かないの?」
『大将? 今酔った常連さんの相手をしてるんだよ。もうちょっと待ってくれないか?』
「行った方がいい?」
『大丈夫。厄介な相手じゃないし。多分今日は酔っ払いたい気分なんだろうな』
「じゃ、このまま待ってる。もし寝ちゃったらごめんねって伝えてくれる?」
『分かった。多分先に寝てる方が大将も安心するよ』
「そうかな」
『そうだよ。起きてるなら明日のモーニングは休むこと』
「ええ!」
『なら寝る! いいな?』
「はーい」
『こら!』
「はい、ごめんなさい」
『よし!』
源の声は元気でデカい声だ。スピーカー要らず。だから晶子には丸聞こえだ。
(どっちが店長だか)
くすっと笑う。でも源の配慮が有難いと思う。ああ言われればきっとジェイは早く寝るだろう。
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