蓮の心、ジェイ知らず

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   もう一度封筒を見る。宛先は前のマンションだ。そこから転送されてここに来た。つまり、かなり正確にジェイに近づいているということだ。 (父親の友人が動いてくれたのか) 分からないまま終わっていたかもしれない。そう考えると、ただ驚いていたのが少しずつ実感を伴ってくる。 (ジェイに……ジェイに血の繋がった肉親が見つかったんだ!)  すぐ起こそうかと思ったが、睡眠薬は強くなっている。ベッドサイドのテーブルに手紙を置く。 (明日、読んでやろう。きちんと話さないと)  リビングに行き、母にお休みを言って寝室に戻った。ジェイはど真ん中に寝ている。 「こら。俺の寝るとこ空けとけよな」  ベッドはキングサイズだから充分広いが、さすがに真ん中に寝られると寝心地が悪くなる。電気を消して隣に潜り込み、ジェイを右に寄せようと押した。ちょうどその時、ジェイが反対側に寝返りをうったからそのまま腹ばいになってしまった。 「おい、それじゃ苦しいだろう」  しょうがないとベッドから出て電気をつける。大きな枕に顔を横に押し潰すように眠っているジェイを見つめる。潰れた顔から唇が突き出ていて、呼ばれているような気がしたから顔を寄せてそこに口づけた。 「お前にな、お祖母さんがいるんだぞ。会いに来るって。日本に来るってことだよな…… そうだ、急いでその用意しないと」  蓮はホテルも何もかも用意するつもりだ。 (2人きりになりたいだろうな。日本をあちこちジェイに案内させるのもいいかもしれない)  蓮の中でいろんな計画が湧き出てくる。どうすれば喜んでもらえるだろう。どうしたら祖母と孫で寛いで過ごしてもらえるだろう。  自分のことのようにわくわくする。しばらく楽しい思いをしていない。こんなに長いこと、自分には血縁も無く1人ぼっちだと思ってきたジェイ。喜びではちきれそうになるその顔が見たい。 (日本ならではの食事を食べてもらおう。1日くらいここに泊まってもらっても構わないだろう)  もう寝るどころじゃない。静かにリビングに行きパソコンを持ってくる。開いて蓮は夢を見る。 (来てもらうのは春がいいんじゃないかな。桜並木を見てもらいたいよな。富士山もいい。あ、まさなりさんにコテージを貸してもらってのんびり過ごしてもらったらどうだろう。あの周りはジェイが案内できるだろうし。食事も心配ない)  夢が膨らむ。朝が待ち遠しい。早く手紙を読んでやりたい。 (多分泣くよな。タオル用意しておかないと。……ティッシュ、もう一つ要るか? きっと鼻水たくさん垂らす)  とにかくジェイに自分のこの興奮を伝えたくて、そしてジェイの興奮を味わいたい。  …………肝心なことを蓮は失念している。残念ながら、ジェイは英会話ができない。  
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