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2 花純への魔手
「坂上さんだよね。俺は松山雄彦、よろしく。帰り道が同じだから、一緒に歩いても良い?」と俺は話し掛けた。彼女は驚いて警戒していたが、工藤が教えてくれた通り、学校の事を聞いたり話したりして、彼女の興味を引いた。
「坂上さんは明日ヶ丘高校だよね。あそこは元女子高で、男子は少ないんだよね。F高は逆に男子が多くて、体育の着替えは教室で女子の前でするんだ。」
彼女はあまりしゃべらなかったが、興味深そうに聞いていた。最初のコンタクトは、まずまずの出来だった。それからも近付き過ぎず、離れ過ぎずの時間と距離を保って、一緒に帰り道を帰った。塾から10分ぐらい歩いて別れるが、話が途切れず立ち止まって話すようになった。その内に、帰り道から外れた小さな公園に立ち寄るようになり、ベンチに座って長々と話すようになった。肩を寄せ合って、工藤の言うように、時々肩に触れたり髪を撫でたりして、スキンシップに心掛けた。彼女は嫌がる風もなく、気付かぬ振りをしていたが、ある時、背中からお尻に軽く触れてみると、さすがに俺の手から逃れていた。
花純の独り言
松山君はF高で頭が良いし、話す事も面白い。同年代の男の子と初めて付き合ったけど、彼を好きになりそうな予感がする。時々肩や髪に触れてくるけど、別に嫌じゃないな。男の子に触られるのは、実は嬉しいかもしれない。こうして、いつかはキスしたりするのかな?でも、それはまだハードルが高いかな。
ちょっと待って!松山君の手が、背中のブラジャーの線を確かめてる。何なの?嫌だ、お尻を触ってる!
「坂上さんが好き!キスしてもいい?」
彼女の気持ちが俺に傾きつつあると確信した俺は、肩に手をやって告げた。彼女は黙って下を向いていたので、顔を近付けてキスをしようとすると、
「ごめんなさい。私は、そんな気持ちがないから…。」と断られた。俺はショックというよりも、腹が立っていた。俺の誘いに尻尾を振って付いてきたのに、今さら断る気持ちが分からなかった。
「何だよ!キスぐらいいいだろう!やらせろよ!」と自棄になって言った。すると黙っていた彼女は立ち上がり、逃げるように去って行った。俺はまた失敗してしまったという後悔よりも、口惜しくて彼女への仕返しを考えていた。
塾が終わって出口で彼女を待ち伏せし、一緒に帰ろうと誘ったが、逃げるように帰る後を付けたこともあった。次第に口惜しさが憎さに代わり、帰り道を急ぐ彼女の長い髪を、自転車に乗って後ろから引っ張った事もあった。それからは彼女の友達が一緒にいて、中々近付けなかった。その隙を見て、
「坂上さん、最近冷たいね!僕は別れたつもりないからね。明日の夜、公園で待ってるから、絶対来てね!来なければ、何するか分からないから。」と脅迫めいた言葉で、彼女に迫った。
花純の独り言
松山君は人が変わったようだ。しつこく付きまとうのはストーカーだし、さっきは脅してきたし、何か怖いな。キスを迫られたあの時、OKすれば良かったの?違うよね、キスを許してたら次から次へと求めて来る。私の身体が目的で近付いてきたという事だよね。杏達に相談してみよう。
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