4 決心する杏

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4 決心する杏

 京都での1日は、夢のように過ぎていった。あとは彼女をホテルに送り届けるのが、僕の役目だと承知していた。 「杏は、今日は何処に泊まるの?送って行くよ。」と僕は訊ねた。 「陽介さんの、家は駄目ですか?ホテルは取ってないので、泊めて下さい。」  彼女の言葉に、僕は耳を疑った。どういう事、一緒に寝るという事、彼女はどういうつもりでいるのか分からない。 「良いけど、僕の部屋は狭いし、布団も一組しかないから…。」 「それでも、部屋に行ってみたい。夏だから、布団はいらないし!」  彼女は心の中で、決めて来ているようだ。そこまで言わせておいて、男の僕が断ったら沽券にかかわるし、ともかくバスに乗るしかない。  四条からバスに乗り30分ぐらいで着くが、彼女は口数が少なくなって外の景色を眺めていた。何を考えているのだろうかと気になったが、それどころではなかった。京都のガイドは下調べをして上手くいったが、彼女と夜を過ごす準備は何もしていなかった。部屋はきれいに片付いているが、心の準備ができていない。彼女は僕とのセックスを望んでいるのか、それとも単純に泊まる所がないだけなのか分からない、どうしよう。 彼女の裸を見たい、抱きたいという思いは、いつも頭の中にあったが、まさか今日この時とは考えていなかった。エロ本での知識はあるが、生の女の子の裸は見た事がないし、ましてや体を触ったこともない自分に、彼女を抱く事ができるのかが不安だった。  ああでもない、こうでもないと考えあぐねている内に、バスは最寄りの停留所に着いた。取りあえずコンビニに寄って、飲み物やらお菓子を買い込んだ。それから、コンドームも手に隠してレジに持って行った。  僕は平静を装って、彼女を部屋に招き入れた。ベッドを背に座った杏に、 「この部屋には、女の子とか来るんですか?」と訊かれた。 「いや、部屋に来たのは君が初めてだよ!何でそんな事を訊くの?」  彼女の意図する事は何となく分かったが、その話はそれで打ち切った。その後は、飲み物とお菓子を食べながら、高校時代の事や大学生活の話をした。 「陽介さん、彼女はいないんですか?」と唐突に訊いてきた彼女に、 「だって、君が彼女だから作らないよ!」と答えていた。彼女は照れ臭いのか、僕の首にしがみ付いてきた。彼女の唇に軽くキスをし、首筋にもキスをしながら、「いいの?」と僕は耳元でささやいた。  首筋をなめて気が付いたが、汗で塩っぽかったのでシャワーを勧めた。そのまま彼女を押し倒して強引に進めても良かったが、冷静に紳士的に振舞った。というより、どう進めて良いのか分からなかったというのが、正直な所だ。 杏の独り言  陽介さんはあまりしゃべらないけど、何を考えているのかな。泊まると言ったら、焦っていた。迷惑なのか、そのつもりはなかったのか、よく分からない。男の子は好きな子を抱きたいとか、セックスしたいとかチャンスをねらっているのかと思った。陽介さんは違うのかな?やっぱり真面目な人なんだ。  コンビニで何を買うの?お菓子とか飲み物?あれ?手の中に入れていた物、レジに隠すように出したけどあれだよね。やっぱり考えてるみたいで良かった。 キスして首をなめて、このまま押し倒されて、無理矢理やられても良かったけど、シャワーを勧めてくれて、彼は意外と冷静だな。
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