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その夜、母に呼ばれ一人家を出た。
息子が幼稚園で集団生活しているから、“無症状で保菌”している可能性が怖く、重症化率の高い祖父母のいる夏野家にはずっと来ていなかった。それが正しいことだと信じて。
車を降りると、ぽつんと庭で待っていてくれた母と目が合った。母の目は、玄関灯の薄明かりの下でも赤いのがわかる。
「……突然だね」
「うん、突然だ……」
歩きながら、それだけを言葉にした。
伯父の家へ入ると、居間には祖母、伯母、いとこの姉弟が寄り添うように、静かに座っていた。みんなの表情は、見られない。
「まやちゃん、ありがとう。忙しいのに来てくれて」
私より二つ年上の由梨が、気丈に言った。
「ううん」
30歳のいい大人だというのに、辛い思いをしている由梨ちゃんが大人の対応をしてくれているのに、私はただその一言しか出せなかった。
奥の和室に、光沢のある真っ白な布団の膨らみを見つけたからだ。
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