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――別に、あんたには関係ないじゃない。
前と同じ言葉は返ってこなかった。
松の木の根元に、見覚えのあるセーラー服姿があった。
全身ずぶ濡れになって、小刻みに震えながら、膝を抱えて座っていた。
「なぁ、おまえさ、なんの為に勉強をしないんだよ」
あいつは汀の隙を縫うように、何度か鼻をすすった。
相変わらず影に隠れてその表情は読めないけれど、あの細い目で俺を見つめている気がした。
「あたしは、なんの為に勉強するのか、わからなくなったから勉強をしないの、それだけ」
「そりゃ、まぁ、そうなのかもしれないけどよ」
そんな当たり前の困難があるなんて
そんなこと、考えたこともなかった。
この全身の震えや、ここまでの道程と同じように。
「俺なんかさ、なんの為に勉強すんだろうな」
防波堤の上から見た足のすくむような深い夜の海の奥で
俺とあいつは今、数メートル離れたところにいて
「そういえば、あんたさ、あの作家の本、今度貸してよ」
「あの作曲家のレコード代わりによこせ」
「なによ、その言い草」
「そもそも帰れんのかよ、俺たち」
同じところにいるんだという気もした。
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