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そんな考え事をしながら自転車を漕いでいると、海沿いの防波堤まで着いていた。
ここまでくれば家はもう間もなくで、目をつぶっていても帰れるくらいに通り慣れた道だった。
「さすがにもういねぇよな」
夕方あいつのいたあたりを自転車のライトで照らすと、あいつの姿はそこにはなかった。
当たり前か、と呟いて、少しでも早く電話をしようとハンドルを家路に向けたとき、なんとも言い難い違和感が残っていることに気が付く。
改めてあいつのいたあたりをライトで照らしてみる。
誰かが近寄ってくるような圧迫感があった。思わずハンドルを握る手に力がこもる。
本能的に静寂を保ちながら、砂浜を注視する。
気が付くまでの間、どれくらいそうしていただろうか。
種が明かされてしまえばなんのことはない、海岸に付いた足跡のくぼみが影になって、ぽつぽつと海にむかって伸びていただけだった。
そして足跡の影をライトで追うと、波打ち際に消えていた。
しかしあいつの姿はない、頭でも冷やして帰ったのだろう。
今度は反対に、足跡の影を波打ち際から追っていった。
――その影は、あいつのいたところで消えていた。
その意味を考える。
意味がわかった瞬間、俺は自転車を乗り捨て、夜の海に向かって駆け出していた。
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