エリタの幸せ

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エリタの幸せ

 エリタに特技はない。  運動もできないし、学校の成績もよくない。  それにお母さんのようなすごい魔法も使えない。お父さんも、お母さん程ではないとはいえちゃんと魔法を使えるのに。  この国において、魔法は裁縫や料理と同じだ。正しい手順を踏んでもどうしても上手くいかない人も、時間をかけて練習すれば出来るようになる人もいる。お母さんのように最初から完璧にできる人だっているけれど、残念なことにエリタは後者ではなかった。  でも、特技がないエリタでも。  物語を書くことだけは大好きだ。  もともと読書家だったエリタは、魔法の練習よりも本を読むほうが好きだった。魔法図書館にひたすら通い、怒っている時も泣いている時も、ずっと本を読んでいた。  その本を見つけたのは、確か三・四年ほど前だ。  学校で行われた魔法のテストで盛大に失敗し、たくさんたくさん泣いたあと、ふっと題名に惹かれて見つけた本を軽く立ち読みするつもりで読んでいた。読み始めた時もまだ涙は止まっていなかったけれど、登場するキャラクターのボケツッコみがあまりに面白くて、気づいたら大笑いしていて。こんなことってあるんだ、と驚いたことを今でも覚えている。  その本は今でも宝物で、その本の作者を本を読んだ時からずっと尊敬している。  あの時エリタは心の底から、『こんな風に、誰かが泣いてても怒ってても笑顔になれる物語を書きたい』と思ったのだ。  魔法が使えなくても、運動が出来なくても、頭が悪くても、特技がなくても。  エリタは物語が書ける。
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