エリタの幸せ

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 お母さんに自分で作った物語を恐る恐る読んでもらうと、読書好きのお母さんは大喜びだった。 「もっとたくさん書いて。エリタのお話、すごく素敵」  そう言ってお母さんは、文房具をたっぷり揃えてくれた。  それだけでなく、この『E』の部屋を紹介してくれた。  お母さんのおすすめなのだそうだ。  WRの多くのドアは、それぞれ広さも高さもバラバラの部屋に繋がっている。どの部屋も異空間になっているらしくて、隣のドアと密接していても部屋自体は横に広かったりする。  もちろん『E』の部屋も、夢なのかと思うほど広々としていた。 「ここの部屋には、たくさんの人が書いたお話が集まってるの。今でもどんどん増えているから、エリタは読むといいわ。きっと素敵な作品が見つかるんじゃないかしら」  お母さんは管理人さんから貰える自分一人だけの『(パスワード)』をエリタに渡して、笑顔でそう言った。  エリタは早速鍵を開けてその部屋に入り、一面に広がる作品たちに息を呑んだのだ。  天井が見えないほど高い壁をとりかこむ本棚に、隙間なくぎっしりと詰め込まれた本の表紙と、表紙の手前に浮かび上がっているタイトル。ほとんどの作品は、本の周り____横や上や下に紹介文がついていた。  時折本棚の中の作品が、キラキラと透き通る大小様々な泡に入ってふよふよと宙に浮くこともあり、泡の中では表紙絵やタイトルがゆっくり回転している。  エリタが本棚で見つけて何の気なしに触った表紙も、ポンと泡の中に入って本棚から出てきた。その場合は、表紙が右回りに回った時に、裏にあらすじや感想・作者名が書かれているのが見えた。  エリタが試しに泡をつっついてみるとパッと弾けて、黒い文字がつうっと並ぶ、一瞬目が眩むほど真っ白な原稿用紙が飛び出す。読み終わって原稿用紙をめくろうとすると文字だけが一瞬で切り替わって次のページになり、一枚の原稿用紙で一つの作品を読めるようになっていた。  よっぽど高等な魔法なんだろうな、とエリタは思う。
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