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時刻は夜の10時を過ぎていた。
12月がもう半分過ぎようとしていた。
完全に冬になった外の世界は、彼女が羽織って出ていった薄手のコートじゃ相当寒かったと思う。
…僕は、彼女に触れない。
あったかい部屋で彼女を待ち続けていた僕に、外で何をしていたかわからない彼女に触れる権利は、あっても使わない。
薄手のコートを脱いで、それを僕は預かった。
彼女はふわり、笑って部屋へと入っていく。
ヒールのある真っ白なブーツ、薄いピンクのコート。
それらが彼女を纏っているとするならば、それは本当の彼女なのか、そう問いたくなる。
それとも、僕の知っている彼女が本当ではないのか。
僕と彼女の関係は、形だけで、中身なんて何もないのかもしれない。
「お風呂、入ってくるね」
「うん」
「…まだ、起きててね」
「─わかった」
まだ、起きていてね。
彼女はいつも決まってそういう。
部屋着と下着をもって僕の横をす、と通り過ぎる。
酷く甘ったるい香水の匂いがした。
僕は顔を歪めて、それから、彼女が閉じた洗面所の扉を黙ってみていた。
──今日も、香水の匂いはさわやかなフレグランスの香りではない。
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