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「──燿(ひかる)、」
30分くらい。
目を閉じたまま、今日もちっとも好きになれない彼女の好きなJポップを耳に流し込んでいた。
ふと近くで聞こえた優しい声色に瞼をゆっくりと開ける。
「…髪の毛、濡れてる」
「うん、燿が寝ちゃったと思って」
「寝ないよ」
「そう、…ねえ、乾かして」
彼女の甘えた声に、僕は黙ってうなずいた。
彼女の差し出すブラシとタオル、コードの繋いだドライヤーを受け取って、僕は黙って彼女の髪の毛に触れる。
チョコレートブラウンの髪の毛は、濡れているとより一層色っぽくて。
鏡に映る彼女の頬がピンク色に染まっている、そこに触れたくて、…けれど、それには気づかないふりをした。
──彼女のおもう通りにはさせたくない。
僕のいつもの、ちっぽけな反抗だ。
彼女は流れっぱなしのJポップに耳を傾け、鼻歌をうたう。
彼女の高い音色は、機械から流れる音よりもずっと綺麗で、この瞬間だけはJポップのことも好きになれるような気がしていた。
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