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今朝、きみは部屋を飛び出した。
きみのスマホの着信履歴には、ぼくは一度もいない。
きみはきまって同じ相手に呼びだされて、嬉しそうに化粧をして、普段は絶対に着ない白やピンクに身を包んで、甘ったるい香水を振りまいて、ぼくに言うんだ。
『─なにも、言わないんだね』
今日も。
何度も、きみはぼくに言葉を求める。
…行かないで、
きみは僕の、たったひとりで、僕はきみの、一番でいる。
きみの一番は僕だけじゃない。
きみはたった一人しかいないのに、そのたった一人にはなってくれない。
ちっぽけな安っぽい愛の言葉を、彼女は今日も、ぼくじゃない誰かに振りまいている。
きみの部屋で、きみの帰りを黙って待っている。
それが、ぼくが君に伝えられる唯一の愛だ。
僕の上に跨るきみの頬に手を伸ばす。
薄いピンクに染まった頬を掠めれば、彼女は泣きそうになりながら、笑う。
「…ずるいよ」
「──うん、ごめんね」
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