あなたの足跡は何色?

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あぁ汚い 人の足跡の色。 親が死んで、それから見えるようになった。 目に映る足跡すべてが汚い。 子供の足跡はねずみ色だし、 大人の色はくすんでいる。 路地裏のジジイは色なんてないほどの薄さだった。 まだ夜にもなっていないのに客引きをする奴らの色なんか錆びた金属の色。 そんな奴らに釣られた飲兵衛たちは濁った黄色。 そうでないやつもいるが、 おおかた酒の色だろう。にごり酒とか… それを見てコソコソ言ってる井戸端会議のおばさんたちは いつからそこから動いていないのか そもそも足跡がかき消えていた 醜い 田舎の、故郷ではそうでなかった いや単に人が少なかっただけなのかもしれないが…… ともかくだ… ……ここまで来てしまった。 交差点だ。 やはり汚い足跡だらけだ いつからかここを通るのはやめていたはずなのに 来てしまった 視界がだんだんくすんでいく 色に消されていく。 あぁ、これだだから来たくなかったのだ そのまま食料が尽きて部屋の中で餓死するべきだった そうでなくても家から出るべきではなかった 引きこもりでいるべきであった ……いや私の…私自身の黒い足跡に気づきたくなかっただけなのかもしれない。 あぁ…カラダが崩れるのがわかる 「おい、大丈夫か?」 ……誰? 「誰か助けてくれ!人が倒れかけてる!」 ザワザワザワザワザワザワ 「どおした!」「何すればいい?!」 …誰 薄っすらと目を開ける おかしいな、足元の色が汚くない そうか、そうなのか…そのときの心なのか、足跡は… 「…大丈夫です、少し貧血で…」 「おいおい無理すんな、送ってくぜ」 「ありがとうございます」 「気にすんな」 たったこれだけの会話で頼っていいとわかる この人の足跡はきれいだ きっとそれだけの理由でいい ❉❊❉  「変なお話ー」 娘がそう言う たしかにそうかもしれない でもこれは私の大切な物語… 「人間って案外いい人が多いのよ」 「私にはわかんないや」 「今はそれでいいのよ」 おやすみ愛しい我が子 そっと電気を消しす。 少女の足跡はいつの間にか大きく、優しい桃色になっていた。
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