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その年、生まれて初めて家の外へと出た。
陽の光は目を背けたくなるほど眩しくて、
一歩出た先の、足場はひんやりとして冷たくて、
けれど……
「 ふぁ……ぁ!! 」
どこまでも積もる雪は、白銀に輝く世界を広げていた。
「 すごい、すごい!!コレはなに? 」
「 雪っていうのよ。貴方と同じ名前 」
「 へー!はじめましてボクはユキ、コレもユキ! 」
雪は静かで、問いかけても答えてはくれない。
そのかわりに、沢山の物の跡を残していった。
何もない場所に、一番最初に自分の印を残していく。
小さいそれは、踏みしめた場所に残って、お母さんが目印のようについてくる。
「 よう、ユキ。やっと家から出る許可が与えられたんだな 」
「 そう!ボクもオトナの仲間入り! 」
「 ははっ、それはどうかな?この冬を乗り越えてこそ、一人前と言えるだろう 」
お母さんの兄弟であるお兄さんは
たまに、家に顔を覗かせては色んな話を聞かせてくれた。
沢山の山を乗り越えてきた冒険の話、
そして僕の知らない″お父さん″の話を……。
お兄さんにとっても、お父さんなんだ。
ボクだけじゃない、ここに居る皆の″お父さん″なんだ。
「 ふゆは、ユキと違うの? 」
「 冬は雪を連れてくるものさ。けれど、もっと凍てつくような寒さと、酷な日も…連れてきてしまうものさ 」
「 それは…どんな日? 」
茶色の瞳をしたお兄さんは、口角を上げてはどこか遠くの北へと視線を向けた。
そこに何があるのかな?と見詰めれば、お母さんはクスクスと笑いながら後ろからやって来た。
「 フフッ、そう心配しなくても…私達にはお父さんがついてるから大丈夫よ 」
「 なんで? 」
「 そりゃ、父さんは何でも知ってるからだ。家族の中で一番の物知りであり。強く、勇敢だ。誰よりも冬を恐れては無い 」
冬を恐れてないから、お父さんが居るから大丈夫?
それって、お母さんもお兄さんも怖いってことなんだろうか?
こんなにも、白くて綺麗で、味は無いけど美味しいユキを連れてくる冬を……。
「 でも!だいじょうぶだよ!ユキも、家族守るから! 」
「 フフッ、頼もしいわね 」
「 どうだか?お前みたいなチビには無理だな。無理 」
「 ボクは、チビじゃないもん!いまにみてろ、みんなよりおおきくなるから 」
お兄さんに向かってべっと舌を出してから走っていく
身体が埋まって走り辛い雪の中を掻き分けて進んでいった。
お母さんが遠くに言ったらいけないよ、って言葉が聞こえてくるけど、そんなのはお構い無しに走った。
今なら何処へでも行ける気がしたんだ。
「 ボクは、冬なんてこわくない! 」
ユキを連れてきた冬なら、きっと静かで優しくて暖かいに決まっている。
ユキの積もる木々を抜けて、駆け抜ける角の生えた鹿達をよそに、真っ白で小さな兎さんに挨拶をして、走っていった。
「 はぁ、はぁ……。ほら、ボクはどこまでもいけ……る…… 」
肺が凍るような冷たい寒さを感じて、立ち止まって辺りを見れば
それまでいた、鹿も兎さんも居なくなっていた。
「 あれ……。ここどこ?ママ……?おにい…ちゃん……?おねえちゃん…… 」
家族がいた家の近くじゃ無くなって、辺りを見渡しても、
同じ木々ばかりがあって頭がパニックになる。
家族の名前を呼び、ママを呼んでも、小さな声は木々に遮られて、遠くまで届かない。
「 どうしよう……。ママ……、ボク……おうち、が…どっち…… 」
初めて外に出て、探検しようと走ったら
場所が分からなくなってしまったなんて……
お父さんにバレたら、怒られるか幻滅される。
お父さんは怖い、ってお兄さんが言ってたから
きっと、ボクのことなんて家族じゃないって言うかもしれない。
「 うぅ、ボク……おうちに、かえりたい…。かえるんだ…… 」
泣いたら強くなれない、弱かったら冬に負けてしまう。
立ち止まったらダメ……
自分の脚で歩いて、家に帰ろう。
ただいまって、笑って帰ればきっと…
ママはおかえりって微笑んでくれる。
「 ママ……ボク…かえれるか、おうち、かえるから…まっててね 」
手足が冷たくなってきたけど、一歩ずつ脚を動かして歩いていく。
鼻先に当たった冷たいものに顔を上げれば、白くて丸いものは降ってきた。
「 ユキが…おちてきた…… 」
沢山のユキが集まって、それが真っ白な世界を作ってるんだと知って、
これを、冬が連れてきたって事なんだと思った。
冬がユキを連れてくる
「 たくさん…ユキがくるまえに、かえらなきゃ……。ママ……まってて…… 」
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