おとうさん

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「 ユキが帰って来ないの 」 「 近くの森林を探したけど、この辺りにはいないぜ! 」 末っ子のユキが居なくなった事に気付いたのは、太陽が傾いた頃だった。 直ぐに帰って来ると思っていた母や、叔父達は辺りを探し回ったが、姿は無く 降り始めた雪によって、歩いた痕跡は消え掛けていた。   探しようが悪いのか、 それとも、この辺りにはいないのか どちらにせよ、末っ子の姿が無いことに家族は其々に混乱していた。 「 この騒ぎはなんだ? 」 「 兄貴! 」 「 アナタ……その、ユキがいないの 」 成長した兄弟を連れ、食べ物を探しに行っていた雪の父であるキバは、妻の言葉を聞いた瞬間に金色の瞳を見開いた。 「 何故、小さな子供から目を離した!? 」 「 っ……ごめんなさい…。直ぐに…帰ってくると思って…… 」 「 そう、怒ること無いだろ?俺達も…見てなかったのが悪かったし…… 」 少し食べ物を探しに行くから、そう伝えて立ち去っていたキバを含めた兄弟達は、其々に顔を見合わせては、彼の言葉を待った。 「 もういい、俺が探しに行く。お前等は此処で待機しろ。絶対に、俺が帰ってくるまで動くな 」 呆れたように彼等をその場に止めたキバは、休憩をする事も無く来た道を戻るように走り出した。 分厚い雪を物ともせず、駆け抜けていく姿は風のよう。 けれど、雪手を阻むように徐々に雪は強さを増し、ほんの僅かな時間の間に吹雪へと変わったのだ。 「 チッ……ユキ…… 」 キバは、他の兄弟より成長が遅く、小さな息子が外に出る日を楽しみにしていた。 けれど、やっと許可を出した次の日に居なくなるのは考えられなかった。 彼にとって、小さくとも掛け替えのない我が子だからだ………。 「 ……ママ 」 場所が分からくなって、ユキも強く、激しくなって来た為に歩くのを諦めて 根本から倒れた丸太の中へと入っていた。 中は虫に食われたように、腐っていた為に空いてる空洞があった為に身を隠すには十分だった。 雪が止むまで、我慢しよう… そう思い、小さな身体を丸めて身を震わせる。 「 ママ……さむいよ………… 」 フカフカのママの腕の中で眠りにつきたい程に、手足から冷たく凍り付いていく感覚がする。 今は、出来るだけ身体を丸めて、お腹が温まってくれば手足を埋め、白い息を吐き眠りそうになるのを首を振って耐えていく。 「 お兄さん……ふゆは…こわいね……。つめたくて……、おなかも……すいてきたよ…… 」 ご飯を思い出せば、お兄さんが横取りしようとするのを、お母さんが怒ってるのを思い出して、ちょっとだけ笑みが溢れた。 お兄さんは、いつもお母さんに怒られてる印象があるからだ。 「 ボクより…おおきいのに……。でも、パパはもっと…おおきいのかな…… 」 話は聞いたことはあっても、会ったことが無い。 いつも話を聞いたり、ご飯を持ってきてくれるらしいけど、挨拶もしてない。 そんなお父さんが、僕を知るわけ無いと思った。 「 パパはきっと……ボクを…しらない…… 」 虚ろになる瞼はゆっくりと閉じ、身体の感覚が無くなっていった。 ママ……ボクは…かえれないみたい…… ごめんね……。 約束…まもれなくて……。 おやすみ…と、小さく呟いて皆がいる夢の中へと入っていった……。 「 ユ………ユキ!!! 」 遠くから聞こえてくる声がする。 知らない声だけど…太くて、大きな声は焦ったように、ボクの名を呼んでいた。 もう、身体は動かないけれど その声に答えようと、掠れた喉で精一杯に返事をしてみた……。 「 ク……クー……ン……キャゥー……ン 」 ボクは、ここだよ……。 ボクは…ここに居る。 だから、気付いて……。 必死に声だけを上げていれば、急に地鳴りが響く。 「 ユキ!!そこにいるのか!?今すぐ、出してやる! 」 一瞬、驚いたけど被さっていた雪は徐々に左右に消えていき、光が射し込んできた。 「 ……パ、パ? 」 「 嗚呼、そうだ。やっと…見付けた 」 お兄さんは言っていた、とても怖くて直ぐに怒ると ママは言っていた、とても格好良くて素敵な方だと…… どっちが正解なのか、分からなくて想像していたパパは真っ黒で目が吊り上がってるのかと思ったけど、 ボクを引っ張り出して、しきりと身体に擦り寄ってくるのは ボクと同じ真っ白な毛並みをして、涙を滲ませた優しい顔立ちをした、お父さんだった 「 良かった……、空洞が寒さを防いでいたんだな。良かった、よく頑張ったな…ユキ 」 「 ん……パパ?ほんとうに、ボクの…パパ? 」 お兄さん達が言って印象と違くて、確認するように見上げて聞けば 少しだけ、月のように光る目を見開いてから 大きな口は、笑みを浮かべた 「 嗚呼、御前のパパだ。ほら、帰ろう……。我が家に 」 「 パパ……パパ…は、なんでボクが分かるの? 」 「 ずっと見ていたからな。よく知っている 」 首元を咥えられて、歩き出したお父さんへと視線を向けて宙ぶらりんのまま聞いてみた。 沢山、話したいことがあったからそれを一つずつ聞こうとすれば、お父さんは立ち止まり上を見上げる。 「 夜空が見えたな 」 「 ……あれは、なに? 」 「 星だ。あれを見れば何処にいるか分かる。次にどこに行けばいいのかも…… 」 暗い中で射し込んだのはお父さんの瞳だった。 外はいつの間にか真っ暗で、けれど照らすように夜空が輝いていた。 地面へと降ろされて、座ってからお父さんと同じように見ていれば1つの星へと顔を向ける。 「 あれはおおいぬ座。そして、小さいのがこいぬ座だ 」 「 んー? 」 「 星には其々に名があってな。シリウスと、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のベテルギウスの3つの1等星で、冬の大三角と呼ばれている。我々の先祖は…あの夜空に居るんだよ 」 「 じゃ、いつかパパも、ボクも…あそこにいくの? 」 「 嗚呼、役目を果たした終えた時にはな。御前にも……いつか分かる 」 夜空を見上げて、キラキラした星の元に いつかボクやお父さんも行くという。 あんなに遠い場所にどうやって行くのか分からないけど、ボクを見る瞳はどこか寂しそうな目をしていた。 「 ん? 」 「 俺が彼処に行くのが先か、御前が俺より強くなるのが先か。見物だな 」 ふっと笑って、歩き出したお父さんに着いて行こうと掛け走れば、足元にある大きなモノに気付く。 「 パパの……足あと… 」 自分のより遥かに大きくて雪を踏みしめる程にしっかりとしたものだった。 それを追い掛けていけば、お父さんは少し掛け走る。 「 ほら、どうした?ちゃんと着いて来いよ 」 「 待ってよ、パパ〜!! 」 初めて、お父さんを見た日 その背を追い掛けて走っていった。 お母さんには凄く心配され、 お兄さん達は相変わらず怒られてたけど 次の日から、ボクも怒られた。 沢山怒られて、沢山の事を教えて貰った、 「 ユキ、左に行け!!俺が仕留める 」 「 はっ、父さんに言われなくともボクが先に仕留めてあげるよ! 」 「 お、おい。バカ!!自分勝手に行動するな!! 」 三度、冬が訪れたけどもう何も怖くは無かった あの日より、怖い冬は来なかったから 四度目の冬が訪れて、暖かくなる春が近づいていた。 鹿を仕留めてお父さんに追い付こうと追い掛けた。 家族には家族のルールがあって、それを守らないと危険だということはよく知っていた。 けれど、それを破ってしまったんだ。 「 なんだ、鹿って遅いんだな! 」 立ち止った鹿を見ては、身を屈めてから飛びかかった。 此方に驚いた鹿は脚を滑らせた事に、空中で鹿が立ち止まっていた理由に気付いた時には全てが遅かった。 「 っ……!? 」 「 ユキ!!! 」
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