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受け身を取ることが出来ずに、全身を凍った川の上に打ち付けた
動けなくて、身体のあちこちが痛くて
内蔵に肋骨が刺さったのか、息をするのも困難になってきた。
「 ユキ!! 」
「 おい、ユキ!!しっかりしろ!! 」
降りてきた兄達と、ボクと足場を見たお父さんは他の者達を止めてから、ゆっくりと歩いてきた。
「 動くなよ……直ぐに助ける 」
「 パパ……きちゃ、ダメ…… 」
「 っ、何故だ… 」
息をするのも、口を開くのも辛いけど
耳に届く細かく割れるような音に気付いてるから、来ては欲しくなかった。
「 パパ…なら、わかるでしょ……、きちゃ、ダメなこと…ぐらい…… 」
「 分からない。俺には、分からない 」
軽く首を振って、お父さんは足場を気にして
一歩一歩、ゆっくりと近付いてきた。
ピキッ、と氷に亀裂が走る音が聞こえるのに
それが分からないって言う意味が、僕にも理解出来なかった。
「 父さん……ユキは、助からない…… 」
「 黙れ! 」
「「 っ……!! 」」
「 判断は俺が下すと言ってるだろ!……お前達はそこで、待っていろ 」
兄弟達は耳を下げ、尻尾を丸めた
立ち止まるように座り込むのを見て、お父さんはまた一歩ずつ歩いてくる。
「 ユキ…… 」
お母さんが言っていた……
お父さんとお母さんの初めての子供だったと。
僕はその中でも一番小さくて、身体が弱かったから心配していたって。
少しでも大きくなるまで、外に出さないようにしてたから、色々遅れてるけど…
きっとお父さんのように立派になれるって話していたらしい……。
「 パパ……ごめんね…… 」
「 なにを、いってるんだ…… 」
「 ボク…ぱぱ、みたいに、かしこく…つよく、なれなかった…… 」
「 よせ、これからだろ!経験しただろ、俺の言葉には聞くって事を学んだだろ! 」
会わなかった分…ママよりも沢山、外の事を教えてくれた。
遊ぶ時は、笑いながら構ってくれた。
ご飯の美味しい部分を分けてくれて、着いていけるようになったら狩りを教えてくれた。
僕が全部……パパみたいになろうとして、言うことを聞かなかったのが悪いんだ。
「 ゴホッ……。パパ……さきに、あの、そらに…いくね…… 」
「 駄目だ……駄目だ!!許さないぞ…ユキ!!親より、先に死ぬなんて許すわけ無いだろ!!! 」
足場を気にせず、お父さんは走ってきた。
けれど……小さかった亀裂は広がり、音を立てて身体は川へと落ちていった。
冷たくて、一瞬で息をすることも忘れる程に、何もかもを包み込んでくれるほどに暖かいとも思ったんだ。
″ ユキ、強くなれ。御前は…俺の息子なんだ。必ず、この群れのリーダーになれる ″
″ うん!パパ、みたいになる! ″
追い掛けていた足あとは、
結局…最後まで抜かすことは出来なかったけど
ボクは…幸せだったよ
「 ユキ!!! 」
降り積もる雪を見てると、ずっと昔の記憶を思い出す気がする。
冷たくて、けれど暖かい気持ちになって
ぼんやりと雪を見ていれば、重く踏み締める足音が聞こえてきた。
「 幸哉、どうした? 」
「 父さん……。あ、いや…ちょっと考え事 」
名を呼ばれて顔を向ければ、父が迎えに来た。
若くて、男手一人で育ててくれた父は心配症な為に、よく仕事終わりだろうともこうして迎えに来てくれる。
昔から、何処に寄り道してても分かるんだから、凄いと思う。
「 そうか、帰りに肉まんでも買って帰ろうか 」
「 豚がいいなー 」
「 あぁ、そうだな 」
口数は少ないのに、側にいてくれるから甘えてしまうんだよな
もう、来年から大学生になって家を離れるというのに…
きっと…この人は、寂しがるんだと思う。
「 なぁ……父さん、星が綺麗だよ 」
「 ん?あぁ、冬の大三角だな 」
貴方が進んだ医者としての道を
俺も進むんだから…子供離れしてくれよな。
「 ……そっち?まぁいいけど 」
「 へ?星が綺麗って言ったから…星座の事だろ? 」
「 違うし、肉まん2個な。おでんも追加で 」
「 構わないが……怒ってるのか? 」
「 別にー 」
パパ!と追い掛けていた足あとは、いつの間にか隣に立ち、
そして、少しだけ俺の方が先に歩くようになった
憧れていた父親は、その後ろをどこか嬉しそうに追い掛けて来る。
「 なんだよ、その顔…ニヤニヤして気持ち悪い…… 」
「 いやー、大きくなったなぁと、しみじみと感じてる 」
「 俺の方が1cmデカイからな 」
「 身長じゃなくてな……まぁいいか 」
いつか、俺について歩く子が出来たら
この人は、また…優しく微笑むのだろうか。
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