ネガティヴ・アクセル★2-1

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ネガティヴ・アクセル★2-1

「おかえりなさいませ、ご主人様」  と、メイド喫茶「potpourri(ポプリ)」の梨々(りり)が挨拶してくる。俺は毎日この店に通っているから「おかえりなさいませ」が、メイド喫茶という異空間へのチケットではなくて、ふつうの挨拶に聞こえてしまう。重症だ。 「アンジェリカメイド長なら、あちらにおります、ご主人様」  アンジェリカ……! 彼女に関してならもっと重症だった。  今も彼女は「potpourri(ポプリ)」のゲームコーナーで馴染みの客……というかご主人様と呼ぶべきか……と対戦している。  俺は梨々にオムライスを注文すると、彼女が器用にケチャップで「今日こそ勝利だ!」と書く。俺は苦笑した。何度めだこう書かれるの。  なんといっても、この店に来るときは、アンジェリカと対戦するために自前のノートPCやキーボードとマウスを持ち込む。  ノートPCは「レストレス・ドリーム」の調整やその結果を見るために、キーボードやマウスはできるだけ自分の感覚でプレーできるように。「potpourri(ポプリ)」ではアウェイ度を低めにしたかった。 「ご主人様、本日は栄光を掴めそうですか?」  梨々が訊いてきた。 「戦う前に負けを想像する奴が……」と言いかけてやめる。  これ、誰の言葉だったか──。 「そうですよねご主人様、今日こそメイド長に撃ち勝ってください!
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