31人が本棚に入れています
本棚に追加
ネガティヴ・アクセル★2-1
「おかえりなさいませ、ご主人様」
と、メイド喫茶「potpourri」の梨々が挨拶してくる。俺は毎日この店に通っているから「おかえりなさいませ」が、メイド喫茶という異空間へのチケットではなくて、ふつうの挨拶に聞こえてしまう。重症だ。
「アンジェリカメイド長なら、あちらにおります、ご主人様」
アンジェリカ……! 彼女に関してならもっと重症だった。
今も彼女は「potpourri」のゲームコーナーで馴染みの客……というかご主人様と呼ぶべきか……と対戦している。
俺は梨々にオムライスを注文すると、彼女が器用にケチャップで「今日こそ勝利だ!」と書く。俺は苦笑した。何度めだこう書かれるの。
なんといっても、この店に来るときは、アンジェリカと対戦するために自前のノートPCやキーボードとマウスを持ち込む。
ノートPCは「レストレス・ドリーム」の調整やその結果を見るために、キーボードやマウスはできるだけ自分の感覚でプレーできるように。「potpourri」ではアウェイ度を低めにしたかった。
「ご主人様、本日は栄光を掴めそうですか?」
梨々が訊いてきた。
「戦う前に負けを想像する奴が……」と言いかけてやめる。
これ、誰の言葉だったか──。
「そうですよねご主人様、今日こそメイド長に撃ち勝ってください!
最初のコメントを投稿しよう!