8人が本棚に入れています
本棚に追加
窓から差し込む柔らかい光、小さく揺れる白いカーテン。部屋に立ちこめるコーヒーの香り。
思い出すのは君の横顔。
ただコーヒーを飲むだけでちらつく、あの表情。もう隣には居ないと分かっているのに、度々右側を確認してしまう私。
馬鹿だなあ、私は。
無口な君が好きだった。時々微笑む君が、本当に好きだった。言葉を過去形で紡ぐのが、こんなに辛いことなんて知らなかった。
忘れたつもりだったのに、不意に思い出してしまう。何気ない瞬間に、君が隣にいた頃の記憶が、楽しかった思い出が、溢れて止まらなくなる。
どうすればいいんだろうね。もう、分かんないや。
君との思い出を捨てられずにいる私を……幸せそうな写真を握って泣きじゃくる私を、君はどう思うのだろう。
涙の止め方を忘れてしまったみたいだ。胸が痛くて苦しい。嗚咽が止まらない。息が出来ない。
これを捨てれば、忘れられる?
大切な思い出を目の前から消し去れば、私の後悔は消えるだろうか。握った跡と涙でぐしゃぐしゃになった写真たちを、破きでもすれば全て忘れられるだろうか。
この辛さから、解放されるだろうか。
私は写真のふちをつまんだ。頬は濡れて、日光に反射している。相変わらず、部屋にはコーヒーの香りが立ちこめている。
まるで、本の一ページをめくったかのような乾いた音が、部屋に響いた。
細かく分かれた紙片が宙を舞う。これで、私の恋は終わり。
さよなら――大好きだった君。
君が私の中から居なくなりますように。そう願って、紙片を捨てた。
最初のコメントを投稿しよう!