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少しの違和感
初めは、ほんの少しの違和感だった。
「ねぇ佐吉、そっちに私の鉛筆落ちてない?」
一限目と二限目の間の休み時間。
何気なく隣の席に尋ねて、当然あると思っていた返事が、無かったのだ。
あれ、と一瞬考え、すぐに思い出す。
-- 『佐吉』 なんて名字の子は、このクラスにも私の知り合いにも、いなかったんだったっけ。
それに、私の隣は最初から空席だった。
なぜそんな名前が当たり前のように口から出てきたのか…… そんなことを考察する暇もなく、チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
私は隣の誰もいない机の下に落ちた鉛筆を拾い、教科書とノートを広げて前を向く…… 今日は、私から最初に当てられる番。
先生の説明の合間に、忙しく教科書の問題を確認して答えを書き込んでいるうちに、私はすっかり、 『佐吉』 のことを忘れた。
「ねぇ、道下さん」
有里さんが話しかけてきたのは、その日の掃除の時間だった。
有里さんは、普段は友達とつるむこともなく、休み時間にはひとり自習したり本を読んだりして過ごしているタイプの子だ。けれども、普段目立たない…… というわけでもない、妙な存在感があった。
「最近、クラスの人減ったと思わない?」
「…… ? ううん、前と変わんないじゃん?」
そう答えながら、思い出すのは今朝の休み時間に感じた妙な違和感…… 何だったっけ、私は、知っているはずのない子の名前を、ごく普通に呼んでいたのだ。
「でもさ、クラスの人数が25人って…… よそのクラスより全然少ないよね」
言われてみれば、確かに。この女子校は 『1クラスに35人~40人』 が基準だったはずだから…… このクラスだけ、10人以上も少ないことになる。
-- どうして、今まで気づかなかったんだろう。
けど、逆に言えば、今まで気づかなかったんだから特には問題も無いはずだ。
だから、私は有里さんにこう答えた。
「たまたまじゃないの」
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