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誤算と選択
私をいじめの陰の首謀者だと思ってきた有里さんは、 『お掃除』 の能力を手に入れた時に計画を立てたらしい。
-- 私の友達を順に消して、私を最後に消す。
私は、身の回りから人が徐々に消えて行く、恐怖と混乱をたっぷりと味わいつつ消える……
そういうシナリオだったようだ。
けど、誤算があった。
私が 『友達』 のことをすんなり忘れて、何事も無かったように振る舞ったことだ。
「まさか、ここまで問題なく普通に生活されるとは思わなかったよ…… 佐吉さんが居なくなった朝ですら、何の反応もなくて」
消えた人に関する記憶が残らないにしても、 『親友がいたはずだ』 という思い込みと現実との齟齬には戸惑ったりしそうなものなのに…… と、言われても。
私には、友達がいない、という感覚の方がしっくりくるのだから、どうしようもない。
小学生の時にいじめられて以来、集団の中で生き残るために 『決して油断しない、信頼しない、でもそのフリはする』 と決めて、今まで無難にやってきたのだ。
『うちら、ずっ友』 などと、はしゃぐようなことが本当にあったとしたって…… そんなの、スタイルでしかなかったに、決まってるんだけど。
有里さんには、そんなことも分からないらしい。
「とにかく、方針を変えることにしたんだよ。せめて、少しくらいは怖がってもらわなきゃ……」
確かに、怖がってもいい案件だとは思う。
-- 目の前の女の子に、理不尽な罪状を擦り付けられて、消されるんだから。
ここで私が何も感じないのは、恐怖が強すぎるためだろうか、それとも、消されて惜しいほどの人生を送っていないからだろうか。
今から選ばせてあげる、と有里さんは歌うように言った。
「わたしの言うことを何でも聞く 『親友』 になるか。今この場ですぐ、 『お掃除』 されるか……」
有里さんが、微笑んだ。
先ほどの、怒りのこもった微笑ではない。
なるほど、神様が憑いてたりするのかもしれない…… そう思わせる、優しい笑みだ。
「さぁ、どっち?」
私の返事を待たず、予鈴が響き、昼休みの終わりを告げた。
(終)
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