誤算と選択

1/1
前へ
/10ページ
次へ

誤算と選択

 私をいじめの陰の首謀者だと思ってきた有里さんは、 『お掃除』 の能力を手に入れた時に計画を立てたらしい。  -- 私の友達を順に消して、私を最後に消す。  私は、身の回りから人が徐々に消えて行く、恐怖と混乱をたっぷりと味わいつつ消える……   そういうシナリオだったようだ。  けど、誤算があった。  私が 『友達』 のことをすんなり忘れて、何事も無かったように振る舞ったことだ。 「まさか、ここまで問題なく普通に生活されるとは思わなかったよ…… 佐吉(すけよし)さんが居なくなった朝ですら、何の反応もなくて」  消えた人に関する記憶が残らないにしても、 『親友がいたはずだ』 という思い込みと現実との齟齬(そご)には戸惑ったりしそうなものなのに…… と、言われても。  私には、友達がいない、という感覚の方がしっくりくるのだから、どうしようもない。  小学生の時にいじめられて以来、集団の中で生き残るために 『決して油断しない、信頼しない、でもそのフリはする』 と決めて、今まで無難にやってきたのだ。  『うちら、ずっ(とも)』 などと、はしゃぐようなことが本当にあったとしたって…… そんなの、スタイルでしかなかったに、決まってるんだけど。  有里さんには、そんなことも分からないらしい。 「とにかく、方針を変えることにしたんだよ。せめて、少しくらいは怖がってもらわなきゃ……」  確かに、怖がってもいい案件だとは思う。  -- 目の前の女の子に、理不尽な罪状を(なす)り付けられて、消されるんだから。  ここで私が何も感じないのは、恐怖が強すぎるためだろうか、それとも、消されて惜しいほどの人生を送っていないからだろうか。  今から選ばせてあげる、と有里さんは歌うように言った。 「わたしの言うことを何でも聞く 『親友』 になるか。今この場ですぐ、 『お掃除』 されるか……」  有里さんが、微笑んだ。  先ほどの、怒りのこもった微笑ではない。  なるほど、神様が憑いてたりするのかもしれない…… そう思わせる、優しい笑みだ。 「さぁ、どっち?」  私の返事を待たず、予鈴が響き、昼休みの終わりを告げた。 (終)
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加