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お掃除
有里さんの言を信じるならば、彼女はこの正月に、 『お掃除』 の能力を神様から授かったらしい。
その能力とは、説明してくれたところによると、どうやら超能力の一種。
どんなものでも (たとえ人でも) 存在していた痕跡から記憶まで、キレイさっぱりと消してしまえる…… まぁ、ゲームやラノベなんかで言うところの 『チートスキル』 っぽいものである。
初詣で田舎の古い神社に1万円札を献じて祈ったところ、この能力を授かった、と言われても…… 本来なら鼻で笑いたいような話。
けれども問題は、クラスの人数が実際、誰も気づかないうちに減っている、という事実だ。
「つまり有里さんは 『お掃除』 とかいう能力で、気にくわない人をどんどん消していった、っていうの? なんのために?」
「そんなの…… わからない?」
「さっぱり、全然」
瞬間、有里さんの背後に、黒い炎が立ち上ったような錯角に襲われた。
…… 怒ってるんだ、すごく。
「いじめられてたからに決まってるじゃない!」
有里さんが、叫んだ。クラスの何人かが振り返り、私と有里さんを確認して、また友達どうしのお喋りに戻っていく…… 彼女らには関係ない、と判断したのだ。
「つらかった。本当に、すごく、つらかったんだから!」
堰が切れたように訴えられる、これまでのイジメの数々は……
靴を隠された、机に落書き、机の上に花を飾られた…… といった独創性のないありきたりなものから、皆の前で土下座させられて 『生きていてごめんなさい』 と謝り続けるように強要されたとか、トイレに顔を突っ込まれた、というえげつないのまで。
話を聞く限りでは、ありとあらゆる酷い目に遭っている、という印象だ。
「だから、もうこれ以上いじめられないようにしてください、って祈ったんだよ。そしたら、夜に神様がきて、この 『お掃除』 の能力をくれた。最初は夢だと思ったけど…… 使ってみたら、本当に消えたんだから」
百歩譲ってそれが本当だったとして、その能力をくれたのは本当に神様なのか、とツッコミ入れたい。
けど、私が選んだのは、これ以上有里さんとは話さない、ということだった。
彼女が何を思って私に、能力のことを明かしたのかは知らないが、どうせロクなことじゃないだろう。
そう決めたものの、彼女の訴えはまだ続いていた。
「問題は、1人消す度に、その子に関連する全てが消えてしまうこと…… 全員 『お掃除』 したら、わたしがいじめられたことを、誰も知らなくなってしまった……」
「へえ、良かったじゃん」
「良くない! わたしはあんなにつらかったのに、それが無かったことになるなんて、許せない!」
「はいはい…… ま、私には関係ないけどね?」
いじめられなくなったんだから、それでいいじゃないか。
どんだけ自分が世界の中心なんだ、と内心でだけ呟いて踵を返そうとした私の耳に、有里さんの見当違いな言葉が、届いた。
「関係なくないよね? いじめの本当の首謀者は、道下さん、あなただったんだから」
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