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いじめ
有里さんによれば -- 私が佐吉さんと一緒に、有里さんをチラチラ見ながらクスクスと嫌な感じで笑うようになったのが、去年の6月だという。
そういえば去年の6月は、体育祭のリレーで、有里さんがバトンを落として私たちのクラスが負けたのだった。
悔しかったのは、確かに覚えている…… けれども、佐吉さんと笑いながら陰口を叩いていた、というのは、全く記憶にない。
そして、夏休み中にクラスの人が一斉にSNSで有里さんを無視し出し、9月の夏休み明けから、有里さんはいじめられるようになったそうだ。
「それが私のせいだっていうの?」
「覚えてないの? 道下さんは、クラスのカースト上位グループの女王様だったんだよ」
「全然、知らない……」
私は憮然とした。
「イヤイヤながら人に合わせることはあっても、女王様みたいな立場には、なったことないよ。そんなの学園ドラマの見すぎでしょ」
現実は、ドラマのようには単純じゃない。どんなに人気がある子だって、それを笠に着るような振る舞いが目立てば、いつかハブられ、いじめられる。
そして人気がある子ほど、それをよく知ってるものなのだ。
私だって、思う。
勉強と運動ができて、容姿に恵まれてるだけで女王様のように振る舞えるなら、どんなにラクか、と。
実際には、逆。
『ちょっと○○だからって調子に乗ってる』 という陰口を発生させないために、どれだけ空気を読んで、どれだけ気を遣って、この狭くて汚い世間を生き抜かなければならないことか。
「有里さんみたいに、ぼっちが平気で、どんなにハブられても、いつも自分を保っていられるような人には分からないでしょ」
他人なんか気にせずに、あんな風に泰然としていられたら…… と羨んだことはあっても、いじめたことなんて、全然覚えていない。
なのに、有里さんは静かに、こう問うてくるのだ。
「それが…… わたしをいじめた理由?」
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