身を守るもの

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身を守るもの

 『いじめはダメだ』 ってことを、知らない人は居ないだろう。  けど同様に、どこの世間においても、そんなことはタダの理想論(ファンタジー)だってことを知らない人も、また少ないと思う。  だって、集団は異物を嫌うものだから。集団がある限り、迫害され追放される者は必ず、出てくる。  そして、どんなに頑張っても、ちょっとした間違いで、すぐに追われる者になってしまうのが集団の常である。  だからこそ、私たちは、道化を装っても自分自身とは違うキャラを演じても、求められる役になりきって、身を守っているのだ。  その努力も全くせず、理想論を信じ込んでボヤボヤしている…… 有里さんのような人が生き残れないのは、自然の摂理じゃないだろうか。  頑張って頑張って防御し続けて、それでも、ちょっとしたミスが命取りになったとか、そんなのなら、まだ許せる。  けど、有里さんは、私たちから見たら一番腹の立つ人種…… ちっぽけなクラスの中で、椅子1つ分の安全を確保するために腐心している私たちを、別の場所から見下して 『私は違う人間だから』 とでも言いたげな態度をとる人だ。  自ら身を守ることも、他の誰を守ることもしないくせに、攻撃を受けた時だけ理想論の盾に身を隠しながら、自身のキレイさと正しさを図々しく主張する人だ。 「皆が理想通りに正しくあるべきだ、とか、自分では闘わないくせに誰かが自分を守ってくれるのが当然だ、と思ってるところとか、本当にどんだけ自分が世界の中心なの、って思っちゃう」 「だからって、人をいじめて良いわけないじゃない!」 「私はいじめてないよ? ただ、獣の集団に私も同じ獣だとアピールしていただけだと思う。もし、私がクラスの誰とも関係なく 『有里さんをいじめよう』 と思ってたんだったら、その記憶が残ってるはずでしょ」  有里さんがじっと睨みつけてきたが、私はかまわず続けた。 「私にはそんな記憶、全然ないもの。逆恨みなんてやめてよね、迷惑だから」  もう、これ以上話すことなんて、ない。そろそろ授業も始まる時間だ。  有里さんが誰を消そうがかまわないけれど、私に迷惑かからない所で、やってほしい。  私は話を打ち切ろうと、席に戻って次の授業の教科書を取り出し始めた。が。 「勝手に、終わらせないでよね」  わざわざ追いかけてくる有里さん。なんでだ。 「わたしをいじめた子たちを少しずつ 『お掃除』 し始めて、最初は確かに、いじめられないようになって良かった、って思ってた…… けど、そんなの不公平だって気づいたんだ」 「いやいや、有里さん、皆の人生消してんじゃん! 最大の 『ザマァ』 じゃん!」 「何の苦しみも味わわず、ただ消えるだけで 『ザマァ』 だって? わたしが何回、 『消えたい』 と思ったと思うの?」  ふざけないでよ、と有里さんは吐き捨てた。
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