異物

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異物

 自分をいじめた子たちを消す毎に、自分以外の者の記憶から、いじめがあった事実そのものが消えてしまう…… それに気づいた有里さんは、考えたんだそうだ。  今もいじめられた記憶に苦しむ自分がバカみたいじゃないか、と。  クラスは今では平和で仲が良い感じに(まと)まっていて、誰もがその恩恵を享受している。  -- なのに、自分は、何気なく話しかけられるだけで、びくびくしてしまうのだ。  今でも、振り向いた瞬間に、頭上でゴミ箱がひっくり返るのではないか、とか、そんなことばかり考えてしまう…… イジメなんて最初から無かったことになって、皆が楽しそうにクラスで生活している中で、いじめられてきた自分ひとりが、異物なのだ。 「そんなの、許せないよねぇ? どうして、苦しめられてきたわたしが、まだ苦しみ続けなきゃならないの?」  長い訴えの後で、有里さんは、ゆらり、と微笑んだ。怒りのこもった笑みだ…… けど。  本当にこの子は甘いよね、と私は思う。誰だって大なり小なり辛いことを抱えているけれど、それを出さないだけなんだ。  世間(クラス)に気を遣って、平和な世間を保つために。  それに気づかないから、有里さんはいつまで経っても異物のままなのだ。 「せっかく、いじめっ子がいなくなったんなだから、そんなの忘れて新しいクラスで仲良くやればいいじゃん」 「だから、どうしても、できないの!」 「じゃあ勝手にしなよ」  もう、いい加減ウンザリしてきた。  これ以上は本気で無視しよう。  そう決めて、次の授業の予習を始めた私に、有里さんは 「ねえ、道下さん、わかってる?」 と気持ち悪い優しい声を出した。 「わたしが最後に消そうと思ってるの、あなたなんだよ?」
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