1. 素晴らしい世界

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ゴールデンウィークには、静真の友人も 遊びに来た。 中学生になり離ればなれになった友だちだ。 小学校を卒業してから初めて会う。 彼は中学受験をして中高一貫の学校へ進学した為 静真が引っ越す事にならなくとも、2人は同じ 中学に通う事はなかった。 でも、静真が引っ越すことが決まる前から 違う学校へ行っても会おうな、と約束する そんな仲だった。 外に出かけていって、夕方2人で帰って来た。 「(そら)君久しぶり。 遠くから来てくれてありがとね」 母が嬉しそうに玄関まで行って出迎えた。 哉芽はリビングでゲームをやって 興味ない風を装っていたけど、静真が連れてきた 友人が気になって仕方なかった。 静真はまだ、中学校の友達を家に連れてきた 事がなかったから。 「こんにちは」 にこやかに、品の良さそうな物腰の 少年が、リビングに入ってきて哉芽を見て 軽く頭を下げた。 哉芽は無言でペコっと小さく頭を下げて返し すぐにゲームの画面を見た。 「人見知りなんだ」 キッチンでおやつを準備しながら 静真が言った。 心なしかいつもよりテンションの高い静真を 見ると、妙に居心地が悪くなり、哉芽は無言で リビングを出て、自分の部屋にこもった。 少しすると、隣の部屋から話し声が聞こえてきて 二人が静真の部屋に来たのだと気づいた。 何を話しているのかまでは聞き取れないが 時折大きな笑い声が聞こえてきていた。 ー あんなに大声で笑うの… 見たことない。 兄たちがどんな会話で盛り上がっているのか 気になりつつも、気にしたら負けのような 気がして、必死でポータブルゲームに集中した。 ふと気づくと隣の部屋がやけに静になっている 事に気づく。 静真達が上がってきて1時間ほど経った頃だろうか 哉芽は気になって壁に耳をくっつけて、隣の様子を 窺った。 ボソボソと、話す声と、含み笑いが聞こえて それまで気にしないように張っていた糸が プツリと切れたように、隣が気になって 仕方なくなってしまった。 何か隣の部屋に行く口実はないかと部屋を見回し 名案が浮かんだ哉芽はニンマリ笑った。 「お兄~! 15巻貸して~!!」 言いながら唐突に静真の部屋のドアを開けたのだ。
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