1. 素晴らしい世界

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「お兄~これどうやってるか分かる?」 学校から帰ってきた静真を、待ちかまえていたように 哉芽がテレビのリモコンを持って手招きする。 「なに?」 静真は暑そうにシャツを脱ぎながら返した。 哉芽は立ったまま、リモコンを操作して 動画アプリを開くと流行りのKポップの MVを映した。 「これ、今度踊るんだ。 ここ、何度見てもよく分かんない」 学校のクラブで今度踊る曲の予習を しているらしい。 静真は小学校まで近所のスタジオで、ダンスを 習っていた。 静真が唯一続けられた習い事だった。 再婚前に何度か、静真が教室に行くのに 付いていった事があり、静真がどれくらい 踊れるのか哉芽は知っていた。 「もっ 一回見せて」 「はい」 哉芽がリモコンを渡した。 静真は自分で早戻しして、動きを確認しながら 体を動かした。 「こうじゃない?」 「………ぉぉ、もう一回やって」 「1、2、たーあん……みたいな」 「おお!こうか!」 「そうそう、そんな感じ」 「じゃぁ、次は…」 「待て待て、着替えてくるから」 静真は長くなりそうだな、と 気づいて笑いながら 哉芽を止めた。 ゆっくりリビングを出て、階段を登る静真の背中を 早くね~!と元気な声が追いかけた。 哉芽は踊っている静真を見るのが好きだった。 ダンスの授業は何度か経験したものの 気恥ずかしさもあり、かっこよく踊る事は できなかった。 クラスの中にはダンスを習っている者も何人か 居たが、得意気に踊る様が鼻について、ちっとも かっこいいと思えなかった。 でも、静真が踊っている姿を見たときは 衝撃だった…。 初めて、ダンスができるってかっこいい、と 素直に思えた。 力の抜けた、しなやかな動きも 芯のぶれない安定感のあるステップも 先生の細かな動きを見逃すまいとする 真剣な目も。 額に にじむ汗も…。 普段の、どちらかと言えばめんどくさがりで 動きの緩慢なポワンとした静真とは、まるで別人で 食い入るように見つめてしまった。 それ以来哉芽は、事ある毎に、踊ってよ、と、 お願いした。 音楽番組を見た時や、流行りのフリの入った 曲を耳にした時など……。 でも静真が踊ってくれる事はまずなかった。
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