1. 素晴らしい世界

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1. 素晴らしい世界

2人が初めて会った時は まだどちらも小学生だった。 哉芽(かなめ)が小学4年生 静真(しずま)が小学6年生になって すぐの事だった。 哉芽は2歳の時に母を亡くし 静真は7歳の時に、離婚によって父を失った。 二人の父と母は2年ほど交際をして、再婚を 考えるようになった。 そして、子供達の状況など、いろいろな タイミングを考え、実行に移す事を決めたのだ。 再婚後は哉芽と父の住む、戸建ての家に 越してくるつもりだったので そうなると静真の通う中学校も変わり 名字も変わる。 それならば中学に入学するタイミングで 越して来るのがベストだろうと…。 そんなわけで “今日からあなたたちは兄弟よ” … なんて、急な展開にならないように 籍を入れる前に、2人に心の準備をさせるため 顔合わせをする事にしたのだ。 カジュアルな洋食レストランで 二人は顔を合わせた。 それぞれの親から、結婚を考えている相手が いること、そして相手にも子供がいて、いずれ 兄弟になるのだということ…。 それを聞いていた二人は、ちゃんと状況を 理解した上で、その席についた。 「…静真です」 母親に促されてペコリと頭を下げて挨拶した。 哉芽も父親に促されたけれど、ペコリと ちょっと頭を下げただけで声は出なかった。 代わりに父親が、哉芽です、と言って笑った。 「人見知りでごめんね」 哉芽の父親も、静真の母親も 二人のことはあえて気にせず、それぞれ普段通り 食事を楽しんだ。 内心では、もっと仲良く打ち解けてほしいと 思っていたけれど、焦って強引に二人の 仲を近づけようとはしなかった。 食事が終わるまで二人の間に、会話らしい会話は なかった。 哉芽は食べている時以外は、ほとんどずっと ポータブルゲームをやっていたし、静真も 持ってきたマンガ雑誌を読んだりして…。 2歳という年齢差は小学生の二人にはそれなりに 大きく、空気を読んで、親たちの思惑通りに 動けるほど器用でもなかった。 でも逆に、二人にはそれが好印象になった。 まわりにはそうは見えなかっただろうけど。 自分の領域にズカズカ入って来ない。 それぞれのペースを守るスタイルが 自分に似てる…。そう感じた。
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