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「お母さん今日の夕飯何?」
玄関で靴を履きながら、哉芽が母に聞いた。
「まだ決まってないの」
「じゃあカレーがいい!」
「1週間前に食べたばかりじゃない?」
「でも、うまかったから!またカレー!」
「そう?じゃ、分かった。カレーね!」
「やった!」
哉芽は母からランドセルを受け取り
ササッと背負って、大声でリビングに向かって叫ぶ。
「おにぃ~! はやく!」
「…ハイハイ」
静真はダルそうに、ちっとも慌てる事なく
玄関に表れた。
「別に先に出たらいいのに…」
「一緒に行くって言ったじゃん」
「…ハイハイ」
静真は うるさそうにしながらも顔は笑って
哉芽のわがままを受け入れる。
その様子を母も微笑ましく見守って、二人を
笑顔で送り出した。
正式な家族になってまだ1月とちょっとだ。
それなのに哉芽はビックリするほどの早さで
義理の母と距離をつめて、お互いの遠慮を
吹き飛ばした。
普通だったら、無理をしていると思われそうだが
哉芽はそんな顔色を微塵も見せなかった。
「おにぃ、今日も部活?」
「ああ」
「つまんない~、早く帰ってこいよぉ」
哉芽はゲームの相手をしてほしくて仕方ないという
顔で、口を尖らせ 歩く。
「ハイハイ」
自分の帰りを待ちわびてくれるのは
単純にちょっと嬉しい。
言葉だけでは、遊び相手がほしくて拗ねている…
といった様子だけど、実際は母と二人きりで
過ごす時間を、少し気まずく思っているのでは
ないだろうか?
静真はそんな風に感じていた。
他の家族がいれば間がもっても
二人きりは、やはり少し落ち着かないのでは…。
静真自身、まだ新しい父とは距離を感じている。
“父さん” と呼ぶにはまだ少し、照れや気まずさは
消えてくれない。
もっとも、父は朝、静真たちより早く家を出て
帰ってくる時間も遅く、4人で夕食を食べれる日は
週末を除いたら2日あるかないかだ。
距離を詰めれるほど一緒に過ごす時間がないのだ。
悪い関係ではないけれど、まだ他人行儀なのは
事実だった。
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