1. 素晴らしい世界

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「お母さん今日の夕飯何?」 玄関で靴を履きながら、哉芽が母に聞いた。 「まだ決まってないの」 「じゃあカレーがいい!」 「1週間前に食べたばかりじゃない?」 「でも、うまかったから!またカレー!」 「そう?じゃ、分かった。カレーね!」 「やった!」 哉芽は母からランドセルを受け取り ササッと背負って、大声でリビングに向かって叫ぶ。 「おにぃ~! はやく!」 「…ハイハイ」 静真はダルそうに、ちっとも慌てる事なく 玄関に表れた。 「別に先に出たらいいのに…」 「一緒に行くって言ったじゃん」 「…ハイハイ」 静真は うるさそうにしながらも顔は笑って 哉芽のわがままを受け入れる。 その様子を母も微笑ましく見守って、二人を 笑顔で送り出した。 正式な家族になってまだ1月とちょっとだ。 それなのに哉芽はビックリするほどの早さで 義理の母と距離をつめて、お互いの遠慮を 吹き飛ばした。 普通だったら、無理をしていると思われそうだが 哉芽はそんな顔色を微塵も見せなかった。 「おにぃ、今日も部活?」 「ああ」 「つまんない~、早く帰ってこいよぉ」 哉芽はゲームの相手をしてほしくて仕方ないという 顔で、口を尖らせ 歩く。 「ハイハイ」 自分の帰りを待ちわびてくれるのは 単純にちょっと嬉しい。 言葉だけでは、遊び相手がほしくて拗ねている… といった様子だけど、実際は母と二人きりで 過ごす時間を、少し気まずく思っているのでは ないだろうか? 静真はそんな風に感じていた。 他の家族がいれば間がもっても 二人きりは、やはり少し落ち着かないのでは…。 静真自身、まだ新しい父とは距離を感じている。 “父さん” と呼ぶにはまだ少し、照れや気まずさは 消えてくれない。 もっとも、父は朝、静真たちより早く家を出て 帰ってくる時間も遅く、4人で夕食を食べれる日は 週末を除いたら2日あるかないかだ。 距離を詰めれるほど一緒に過ごす時間がないのだ。 悪い関係ではないけれど、まだ他人行儀なのは 事実だった。
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