1. 素晴らしい世界

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「……カナさ、無理してない?」 「…何を?」 「母ちゃんと…親子っぽくふるまうの?」 「……してない…と、思うけど… え、僕 なんか変だった?」 「いや、別に……言ってみただけ」 「静真は親父と打ち解けてないもんな~」 哉芽は冷やかすように笑って言った。 「それを言うなよぉ~」 静真がわざと泣き顔を作ってうなだれると 哉芽はケタケタと笑った。 「別に静真が親父を嫌ってるなんて 思ってないよ。だからいいじゃん」 哉芽はその時の気分で、静真の呼び方が 変わる。 家に居るときは “おにい” が多い。 外で二人きりの時や、ゲームに夢中の時は 名前で呼ぶ事が多かった。 「僕、お母さん好きだよ だから全然無理してない 今日のカレーも超楽しみ!」 そう言って静真の肩をポンと叩いて駆け出した。 数メートル先には一緒に登校する小学生が 何人か、かたまっていた。その列に並んだ哉芽は もう一度振り返って静真に手を振った。 静真も笑って手を振り、中学校へ向かって 歩き出す。 小学校と、中学校は同じ方向にあった。 なので毎日一緒に出る。 面倒に感じる事もあるけれど、おかげで 遅刻しないで学校に通えている。 静真は美術部に入ったため、週3日は下校が 遅くなる。 それを寂しがってくれる存在が、家で待ってる という現実は、思っていた以上に静真の心を 暖かくした。 再婚前、平日は6時過ぎまで一人で留守番をして 母の帰りを待った。 時には残業で8時過ぎまで1人なんて事も それほど珍しい事じゃない。 母は今も平日はバイトをしているけれど 朝、子供達を見送った後に出勤して、3時には 上がり、帰ってこれる短時間のバイトだ。 家計の為というよりは、子供たちにあげる お小遣いや、習い事くらいは自分が働いた分で 出したい、という母のプライドのような物だ。 父もそれが分かっていて、母の気持ちが楽なら それでいいと、好きにさせてくれている。 成田家は母が働かなくとも家族4人が食べ ソコソコの贅沢をしても、老後の為にいくらかの 貯金ができる程度には潤っていた。
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