一日目

2/3
前へ
/8ページ
次へ
耳を立てた(うさぎ)のように、周囲を気にしながら少し待った。 それでも何もないみたいだから、意を決して部屋の明かりを点ける。 浮かび上がったのは、ようやく見慣れてきたいつも通りの私の部屋だ。 ベッドから出て、玄関へ続く扉をこわごわと開く。 その先を明るくしてみても、普段と変わったところはなさそうだった。 鍵もチェーンロックもしっかり掛かったままだった。 もしかして、スマホがアップデートでもしたのかな。 私はない胸を撫でおろしながら、部屋に戻った。 「うわっ!」 思わず腰を抜かしそうになった。 それに太い声で叫んでしまった。 逃げ出そうにも、突然のことに足が硬直してしまって動けない。 「なんなの、これ?」 私がさっきまで寝ていたベッドのすぐ傍の壁に 引き()ったように(わらう)うピエロの顔が くっきりと浮かび上がっていた。 顔の半分もある真っ赤な唇は思いっきり釣りあがってて (まぶた)を黒く塗られた目は、目玉が飛び出しそうなくらい強く見開かれている。 そして、視線の先にある何かをじっと見つめている。 純粋な狂気が抑えきれずに漏れ出してる。 そんな顔が私の部屋に突然現れていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加