0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
その日の夜、私はふと目を覚ました。枕元の時計は深夜の2時を差している。草木も眠る丑三つ時だ。天井に足跡は健在、だがそんなことはどうでもいい。天井板が一枚ズレているのである。寝に入るまではあんなズレはなかった。今、始めて気がついたのだった。
どうせ夢だろう。大家から変な話を聞いたから、レム睡眠中の明晰夢がこんな阿呆臭いものを見せているのだと私は考えた。もう知らない! 私はうつ伏せになり枕に顔を埋めた。
後はそのまま寝に入り、起きれば朝になっているだろう。そして、ウトウトとし始めた。
「うわぁぁぁーッ!」
私の上に「何か」が落ちてきた。なにか小物が落ちてきたとかそんなレベルの衝撃ではない、人ひとり分の重量を持つ「何か」である。
私は慌てて飛び起き、手探りで電灯のスイッチを探した。心臓が腹から下りて口から飛び出そうになるほどにバクバクとする中、私はやっとそれを見つけて叩きつけるように押した。
頼りない月明かりと僅かな街灯によって照らされていた部屋に光が灯る。
そこで私が見たものは…… 全身を黒装束と頭巾で隠した忍者だった。まだ目が慣れないのかベッドの上にて自分の手で目を覆い隠していた。私がそれをただ呆然と眺めていると、忍者の目が慣れてきたのか、辺りを見回し私の方をじっと見つめてきた。
「曲者!」
それはこっちの台詞である。忍者は懐に手を入れ何か黒い尖った物を出し、私に向かって投げつけてきた。シュッ! と、風切り音が私の全身に入り、それから、トスっ! と鈍い音が続けて全身に滑り込んできた。それは電灯のスイッチの横に刺さった。
黒い尖った物は「クナイ」だった。忍者が投げつける爪状の刃物である。本物を見ることが出来て私は軽く感動を覚えてしまった。
「チッ! まだ目が本調子ではない! 外してしまった! もう一度!」
今度は急所を狙うつもりか! 冗談じゃない! 何でこんな意味のわからない忍者に殺されなきゃいけないんだ! 今は令和の世で忍者が跳梁跋扈していた戦国の世でも江戸時代でもない! 私は手を取ったリモコンを忍者に投げつけた。
リモコンは忍者の額に直撃し、鈍い音が響いた。忍者は頭巾の下に鉢金を付けて昏倒しないようにしていると時代劇で観たが、迷信だったようだ。それを証拠に忍者は私のベッドの上で昏倒し失神している…… こいつは新米忍者か? 単なる時代劇かぶれか? 私はそんなことを考えながら忍者をガムテープでぐるぐる巻きに拘束した。
「ん……」
忍者が目を覚ました。私は畳の上に放置した忍者をベッドの上から高みで見下ろす。
普通なら「不審者がいます」とでも警察に通報すべき場面だが、こいつの身の上を聞いた後でも遅くないと思い敢えて放置していた。
「おい! これはどういうことだ! 動けないぞ!」
こっちが聞きたいよ。一番の疑問を私は尋ねた。
最初のコメントを投稿しよう!