下足痕、略してゲソコン

4/8
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「お前、何者だ?」 「……」 だんまりか。拷問されても「自分の暗号名(コードネーム)と所属」を言うことは許されているが、それ以外、特に目的は何があっても言ってはならないとされている。これは軍隊のスパイが捕虜になった時の対応だったかも知れない。私だって人非人ではないから拷問する気はない。 「拙者は伊賀流正統の霞丸(かすみまる)、ご覧の通り忍者だ」 言ってくれるんだ…… 拷問も何もしてないのに。案外、志がないのだろうか。この忍者は。 私は荒い口調で更に突っ込んで尋ねることにした。 「おい、ゴルァ!? この令和の時代に忍者がいるってどういうことだ?」 「い、一応は新卒の国家公務員です…… な、内閣内務省監査部所属……」 「何? 普段は忍び装束着て霞が関に通勤してるの?」 「いえ…… スーツです。タイムカード押してから忍び装束に着替えて各地の諜報先に……」 令和に生きる忍びもこうしてサラリーマンである実態を聞くと幻滅するものである。 忍者もその時代の権力者に仕えて(勤めて)いたと考えるとこれも自然であると考えるのが普通だ。 「で、上司は? 政治家? 官僚?」 「言えぬ。言えば『粛清される』故に言えぬ」 案外穏やかではない界隈のようだ。流石は伏魔殿霞が関と言ったところだろうか。 「伊賀流正統って言ってたけど…… 三重県伊賀市の出なの? ここ出身で忍者の家に生まれるだけで忍者になれるの?」 「いえ、千葉県出身です。スカウトされて」 ますます令和に生きる忍びに対して描いていた幻想が崩れていく。こういった場合は普通は「伊賀忍者の生き残り」とかであって欲しいものだが、案内現実的で拍子抜けである。 「あの、他の流派…… 甲賀忍者と覇権争いとかは?」 「無いです。流派は13近くありますが皆仲良くやってますよ」 これ以上忍者と話していると現実が崩れそうだ。さっさと警察に電話して引き取ってもらおう。しかし、霞が関勤務と言っている時点で我々庶民には手の届かない政治家や官僚が関わっているのは間違いない。こんなヤツを警察は「はい、逮捕引(しょっぴ)きます」と、素直に連れていくだろうか、この忍者が留置所(ブタばこ)で素直に正座して待機している姿がどうしても思いつかない。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!