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「あの、もしかして天井歩いて夜中に監視していた?」
「……はい」
「ちょっと聞くよ、天井歩くって天井裏歩くとかそんなのじゃないよ。そのまま天井に張り付いて歩くって意味よ?」
「はい、こういった監視では地に足をつけてはならないと言うのが基本中の基本なので」
私は足跡の謎が解けた嬉しさ半分拍子抜け半分で舌打ちを放ちながら忍者を拘束していたガムテープを全部剥がした。先程の一旦の解除と違って機嫌悪く勢いよく一気に剥がしにかかる。
「ゆっくり剥がして下さいよ。手の甲の毛全部抜かれちゃいましたよ」
「産毛ぐらいで気にするな。で、天井に立てるの?」
「はい、これが忍者の基礎ですから」
忍者はその場で軽く跳ねた。そして、天井に頭が当たる直前でくるりと一回転し、天井に張り付くように立つのであった。
「凄いね、重力に逆らってる。これどうやるの?」
「修行としか」
どんな修行だよ! と、私は喉から下りかっていた。だが、今はそんなことは問題ではない。
「そのまま歩ける?」
「はい、修行すれば天井の上を歩くのも簡単です」
ヒタリ…… ヒタリ…… 忍者は天井にぶら下がったままゆっくりと歩いていく。物理法則はどうなっているのだろうか。
そして、スタッと言った感じで床に降りてきた。
「えっと、監視対象を間違っていました。申し訳ないです」
「ホントだよ」
「えっとですね、我々忍者は所謂日本版CIAとかMI6とかの類なもので…… 私に会ったことは黙っていただければ有り難いのですが…… このような諜報機関と言うのは表向きには日本に存在しないことになっておりまして……」
日本の暗部に触れてしまったと言うことか。とんでもないことに巻き込まれてしまった。
このドジっ子忍者のせいだ。全く……
「はいはい、良いですよ良いですよ」
「先程、あなたのことを照合させて頂いたのですが、失礼ながらにあまり貯金をなさっていないようで」
給料なんて殆ど家賃と光熱費と食費で飛んでいく、金なんて羽根のように軽いものだ。金と言うシステムに支配されている人間は情けないものである。しかし、マイナンバーカードの番号だけでここまでわかるとは…… 先の給付金を迅速に貰うために銀行口座をマイナンバーカードに登録したら、国に金の動きが筒抜けになってしまったと言うことか。
「お気持ちの方を振り込ませていただきますので、これでどうか穏便に」
「わかったわかった、早く帰れ」
忍者は普通に徒歩で帰って行った。それどころか玄関で普通に草履を履いて出ていったのである。けむり玉で ドロン! みたいな感じで煙のように消えないのが現実的だ。
忍者は完璧に姿を消した。それを確認した私は腰を下ろした。
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