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「あ、焦った…… あいつが新人素人忍者で助かった……」
私に張り詰められていた緊張の糸がプツンと切れた。気が抜けて「擬態」が解けていく……
私の本来の姿である「ゲソコン星人」の姿へと戻っていく。足は八本とこの星の海に住む「タコ」と同じ、二本足がうねうねとしながら八本足となり、ぽこぽこと音を立てながら足全体に吸盤が浮かび上がってくる、矢張り吸盤はいい…… 靴と違って滑ることもない。残り二本の一番長い手が伸びてくる、愚かな地球の人間は「イカの足は10本」とか吐かす奴が多いが、そのうちの二本は「腕」である。私は長い腕を伸ばした、矢張り長い腕はいい…… 人間の短い腕では遠くのものに手が届かないではないか。と、思った。
私はシリウス星第28星系のゲソコン星人。我が母星の人間は地球で言うところの「イカ」の外見である。ついでに言うと、地球にいる「イカ」も遥か遠い時代にゲソコン星から地球にやってきた我々の先祖だ。正直なところ、母星を捨てた奴らなぞ、この星の人間に食われていようと知ったことではない。ただ、イカリングたるものにされるために切られ揚げられるのを見るのだけは心が痛む。
ちなみに私がこんな辺境の地に来たのは「人間」の派遣調査の任を受けたからである。そのために足が二本しかなく、手も短い、体毛などという無駄なもので寒さを凌がねばならない不便な体に擬態し、人間社会に紛れ込んでの調査を行っているのである。
調査の結果、金などと言う労働を価値化し紙切れや金属製にしたものに異状なまでに拘る愚か極まりない生物ということが分かった。そのために同胞同士で殺し合うなんてことも平然とすると言う。その割には殺した後に出てくる「幽霊」たる存在すら曖昧なものを過剰なまでに恐れている…… 死んだ後はどうなるかわからないのに「わかる」と断言する人間は愚か極まりない。これは私が人間に擬態して理解ったことである。
それにしても忍者が実在するとは…… 人間幼体が好きな漫画や特撮の存在ではなかったのか。あのような個人反重力を可能にする超人がいる星はいつか驚異になる。こんな奴らに真面目に宇宙進出を考えられては厄介だ。無辜の民には悪いが一緒に全滅して貰おう。ただちにゲソコンミサイル(星間貫通イカ型ミサイル)で地球を消さねばならない。大体、ゲソコンミサイル50発もあれば十分だろう、都市部に落として人間は全滅だ。
私は腹に埋め込んだ通信機を起動させた。さぁ、地球の人間どもよ…… 最後の夜を楽しむがよい…… 一時間もあればゲソコンミサイルは地球に到達する。その前に私も脱出しなくては…… 帰りの宇宙船も呼んでおかないと。
私はベッドの上に横たわり、遥か遥か遠くのシリウス28星系に向かって通信を送ろうとした。
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