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下足痕、略してゲソコン
私は眠りに入ろうとした。いつもと変わらない天井が私の目に入る。照明は点けられていない故に遮光カーテンの隙間を縫って入る頼りない月明かりが猫の額のような私の部屋を照らし出す。
その日は寝付きが良くなかったのか目が冴えていた。ベッドの中に入っても瞼が一向に重くならない。何度か目をパチクリと瞬きを繰り返すと、月明かりに照らされた天井がか細く光輝いているように見えた。すると、板張り天井にビッシリと靴の足跡が付着ていることに気がついてしまった。慌てて飛び起き、照明を点け、確認するために首を上に上げると立ちくらみがした。おそらく、急に立ち上がり頭から血が一気に下に落ちたせいだろう。本当に不便な作りになっているな、この体は。立ちくらみの頭痛に暫く耐え落ち着いたところで、再び天井を見上げてみた。
天井にあったのはビッシリと付着られた足跡だった。見間違いではなかった…… 就寝前の寝惚け頭ではない。スニーカーと思しき靴の裏の跡が天井に付着ているのは間違いない。天井に足跡が付着ことなどあり得るのだろうか。普通に考えればあり得ないことだ。私は天井に足跡が付着する理由を考えたのだが、どれだけ考えても思いつかない。忍者がヒタヒタと歩いたのだろうかと極めて馬鹿馬鹿しくも阿呆臭い理由を考えているうちに睡魔が襲ってきた。
「まあいいや、どうでもいい」
私は考えるのをやめて再び寝に入るのであった……
翌朝、私は目を覚ました。遮光カーテンでも塞ぎきれない太陽の光を浴び、覚醒状態に導かれたのである。目を開けて最初に見たものは天井にビッシリと付着した足跡だった。
「消えてないのか……」
夢じゃなかったのか。私は天井の足跡に触ろうと手を伸ばしたのだが、短くて届かない……この不便な体が嫌になる。私はやれやれと言った感じに溜息を吐いた。正直な話、天井に足跡がいつから付着ていたのかがわからない。入居してから四~五年ぐらいは経過しているが、思えば天井をのんびり眺めたのは昨日が始めてだった。これまでもあったかも知れないが「意識して」天井を眺めたのは昨日の夜が始めてだったのかもしれない。こうでもなければこう考えるはずがない。
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