L♦︎29 タイムマシーンにお願い

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L♦︎29 タイムマシーンにお願い

 わたし、自分が価値のある人間だって知っている。  パパはお医者さんだったから、生まれた時から、結構いろんな病院に行ったし。  いいえ。  病院に行った、ではなくって。  わたしは内臓が無くなっても、すぐに元に戻せるから……分けに行った。  おすそ分け。おすそ分け?  パパはわたしのコト、凄く褒めてくれていたけれど、ママはわたしを捕まえて家からできるだけ出さないようにしていた。  パパとママは、どうして結婚したのかわからないくらい、いつも反対の考えばっかり持っていると思う。  パパはわたしの特別な力を使って、世界の人たちを一人でも多く助けたいって言っていた。  でもママは、わたしも一人の人間だから、物事の分別がわかるまでは普通の子供として育てたいって、反対していた。  分別って言葉、結構好きになった。  わたしは夜更かしで、いつも毛布の中で携帯をいじっていたから、会話はほとんど聞こえていたし、別になんとも思っていなかったから、パパとママが喧嘩していても構わなかった。  そして……わたしは別に、どっちでもいい。パパが好きなワケでもないし、ママが好きってワケでもない。世界中の困っている人達を助けたいって気持ちもないし、逆に……助けたくないってワケでもない。  本当に、どっちでもイイ。  わたしの体から内臓を取っている間は、誰もわたしに話しかけてこないし、手術中に本を読む……その読書の時間が、わたしは好きだった。  現実の世界よりも、本の中のほうが楽しいんだもの。  本の中の主人公はいつも……冒険している。わたしは病院を、あちこち行ったり来たり。  旅行、という意味では冒険と言えるかもしれないけれどね。  けれど、わたしにとって旅行は冒険じゃない。  ただの移動。  本当の冒険というのは、もっと──。 「エイプリル。少し……後ろを見てくれないかな。尾行されている気がする」 「えー、もう? 早いんだねえ。お国柄かな」  わたしの思う冒険は、今。  こんなカンジ。  どうやって表情に出したらイイのか、まだわからないけれど。でも、本当は飛び跳ねて喜びたいくらいワクワクしている、わたし。
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