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私が一杯目を飲み終わる頃、真子はもう四杯目を飲んでいた。
「ね、尊さん。今日は柏葉さんお休みなの?」
「あー、智紀ね。休みだよ」
「ちぇ、残念。もう一杯飲んだら帰ろうっと。カシスライム下さい」
「かしこまりました」
あれ、と少し違和感を感じた。今の会話からすると、真子のお気に入りは満島さんではないらしい。
柏葉さん目当てと見せかけて実は…もあるかもしれないけれど。深読みし過ぎだろうか。
ほどなくして、真子の前には五杯目のカクテルが置かれた。
「那月、どうする?もう一杯飲んでく?」
「んー…」
サービスだという一杯しか飲んでいないのに店を出るのは何となく忍びない。だが真子はもう帰ろうとしている。ただ初めての店で一人でいるのは居心地が悪い。
「ま、せっかくだからもう少しいなよ。明日休みだしさ」
真子はくいっとグラスを傾けると、私に一万円札を預けて「じゃあね、また来週」と足早に去って行った。
他にお客さんはいない。実質、二人きりの空間だ。
謀られた、とか?思わずじっと満島さんを見つめる。
「…真子ちゃんがここに通い始めてしばらくしてから、同僚に可愛い子がいるって言ってて、今度連れてきてよって話しただけだよ。それ以上でも以下でもない」
視線から私の言わんとすることを察したらしい。
「ま、どんな子かなって気にはなってたけど」
ほっとしたのも束の間、胸をドキリとさせるこの一言。
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