132人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
「ただいま」
「お帰りなさい、オーナー」
「留守番ありがとな、って、あれ。那月ちゃん」
「…こんばんは」
帰るタイミングを失ってしまった。
ポーチがあったらすぐに帰ろう、とムシのいいことを考えていたせいだろうか。
なかなか現実は思い通りに事を運んでくれないようだ。
「那月ちゃん、こいつはバーテンダーの柏葉智紀」
勧められるままに、カウンター席に腰を下ろしていた。
「智紀、こちらは神田那月ちゃん。真子ちゃんの同僚さん」
「神田那月です」とぺこり、と頭を下げる。
「バーテンダーの柏葉智紀です」
真子のお気に入りはこの人か。
出会って十数分、印象はクールでミステリアスといったところ。
…難攻不落じゃない?真子。
何気なしに左耳に髪をかけると、目敏くもその箇所に気を留める満島さん。
「ピアスこの前と違うやつだね」
「えぇ」
会社にしていくのはあくまでも仕事用。派手すぎないよう、最低限のおしゃれをしているだけだ。極々シンプルなもの。
今日は少し大きめの石のものをつけている。
ガーネットが揺れる、アンティーク調のデザインのピアス。
「プレゼント?」
直球ど真ん中。
にわかに跳ね上がる心臓を抑えつつ、見つめ返すことしかできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!